この庭のスタイルは坪庭と呼ばれる。京都の古い民家によく見られ、奥に細長い建物の中に空間をつくり、もともと明かりとりや風通し目的のためにつくられた庭である。
当然、建物と塀に囲まれた空間にあるわけなので、庭全体の陽当たりはよくない。そのため、庭木が主役というよりは、石や灯籠などを中心とした庭。和風の場合は茶庭から派生した素材や様式が定番となる。

この庭でまず目をひくのは灯籠であろう。これは織部型と呼ばれ、庭のサイズに合わせて小さめのものを選択した。写真では判かりづらいが、灯籠の下部に小さく仏像が彫り込まれてある。おそらく作者が遊び心で施したもので、宗教的な意味合いはないと思われる。


灯籠の横に置かれてあるのは、つくばいと筧(かけい)。これは和風庭園で水を演出するのにかかせない構成要素で、物理的に池を掘ったり実際の滝流れを演出することのできない小さな庭には有効である。

庭石には青石を使用。大がかりな石組は施さずに小さめのものを並べ、踏み石には鞍馬石風のものを通路として飛ばした。
敷き砂利は、本来は錆砂利の方が雰囲気は出るのだが、白にすることによって庭が明るくなり、グランドカバー(地被植物)として植えたタマリュウ(ヒメリュウノヒゲ)とのコントラストが綺麗なことから、こちらを選択した。


竹垣は建仁寺垣と呼ばれるもので、作成法こそ専門家に伝授してもらったもののほとんどが自作。実際、青竹張りには丸一日を要した。

庭の隅には照明灯を設置。下草としてササを植え、それが広く繁殖するのを抑えるため御影石で囲ってある。
この照明灯は灯龍の横にも置かれてあり、センサーにより日暮れに自動点灯されるようにしている(消灯はタイマー設定)。照度が低いので、夜間はとても幻想的だ。

管理が面倒なことから、現状以外の樹木は植えなかった。侘びさびを演出するのに苔張りも考えたが、これも管理面に難(定着するまで期間がかかる、空気中の乾燥を嫌う、除草必須)があり却下。コンセプトの中に“和モダン”があったので、日本庭園の流儀は尊重しつつ、雰囲気と美しさ+手入れの簡易さに重点を置いた。
もちろん土地を贅沢に使える郊外ならばこんな庭も珍しくないだろう。和風家屋の一戸建てともベストマッチだ。しかし、ここは都心。マンション内の坪庭なことに意味がある。
大きなスケッチに描いた和の空間。私的には心癒されるインテリアの一つだ。


茶庭にならい、リビングの前には手水鉢(ちょうずばち)が備えてある

平成17年2月1日
Hitoshi Bidai

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