'03.4.26
スティヴィー・ワンダーというミュージシャンをご存じだろうか。
古くは70年代のソウルクラッシック。その中にはラブ・バラードも多く、モータウンでは大御所と呼ばれるほどのビッグアーチストである。
彼はピアニストであり、盲目である。
そのせいかアップテンポな曲でも、私たちの心に何かを訴えるような響きがある。
彼の曲には愛を語るものが多い。
CFでも度々使われる『I just called to say I love you』はそれに代表するもので、他に『For your love』『Over joyed』『You are the sunshine of my life』など。
彼はなぜか日本とベトナムで多くコンサートをやる。
実際に見た人なら知っていると思うが「NIPPON、Aishite-mas!」と、何度も叫ぶ。
私はこれが、ただのリップサービスではないと信じている。
アメリカと戦って災いを被った国――日本やベトナムの国民に幸せになってもらいたいという大きな愛が含まれているような気がするのだ。
昔、彼が来日したとき、同行スタッフの中に私の知人がいて、いろいろと話が聞けた。
とかく黒人アーティストはビッグになると(一発当てると)あまり音楽活動に力を入れなくなる。
まあ、それはアメリカンドリームが、一生遊んで暮らせるほどの富を得るという証でもあるのだが、成功者たちは得てして生活が派手になり、メジャーになればなるほどスター意識丸出しになる。
しかし、スティヴィーは来日したときでも、ホテルのワンフロアを貸し切れとかディズニーランドへ行きたい、などといった急なわがままは言わない。
彼が来日したときに言った唯一のわがままは、夜中にモエ(シャンパン)が飲みたいと口にしたことだけ。
ただ、それも"絶対に"というのではなく、スタッフが『何か要望は?』と訊いたときの返答だったらしい。
まあ、その時代では宿泊先の京王プラザにも置いてなくて、スタッフ総出でモエを求め、深夜のリカーショップを走り回ったとか。
体のハンデを背負ったもの――特に目が見えないといったことは、非常にかわいそうなことである。
しかし、彼はそんな辛さを歌に出したりはしない。
冒頭でも述べたが、彼の曲は、愛する人への想いを込めたものが多い。
見えない人への愛…
それはすべて、イメージの中で創られたものなのかもしれない。
耳でしか受け止めることのできない音楽。
スティヴー・ワンダーの曲というのは、視覚的パフォースを求めすぎる現代人たちに、何かを教えているのだ。