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私は、たまプラーザから帰宅した晩、利奈にメールを送った。
今まで通りの接し方で、ありきたりな文を綴った。
もし、利奈が高岡の共犯者であった場合、いつかはボロを出す。
まあ、それもメール交換がこのまま続けばの話ではあるが。
翌朝、私は10時に起き出し、山手線に乗って新宿へ向った。
アルタ前から西武新宿駅方面へと歩き、歌舞伎町一番街から左の路地を折れた。
昼前の歌舞伎町は、開店前の店がほとんどだった。
それでも、ランチサービスを営んでいる飲食店は何軒か見られた。
私はいくつかの風俗店が立ち並ぶ一角に来ていた。
一年も同じ看板を出しているのは珍しいこの業界だが、目当ての店は以前と変わらずあった。
私は『チチキチキマンボ』の前で足を止めた。
待ってましたと言わんばかりに、呼び込みの男が顔を出した。
「いらっしゃいませ。今なら、どの娘もオーケイっスよ。どうぞどうぞ」
「新庄を指名したい」
私は言った。
「は?」
「新庄武志だ。ここに呼んで来い。警察の者だと伝えろ」
私は怒鳴りつけた。
「は、はい」
男は慌てたように階段を降りて行った。
しばらくして、一人の男が駆け足で階段を上ってきた。
階段の途中で私と眼が合い、足を止めた。
「やあ、憶えているかい?」
私は右手を上げた。
男は顔を歪ませ、歩調を緩めながら私のところまで歩み寄ってきた。
「にいさん、今度は何の用です?マサダの件は決着ついたんじゃないんですか?」
「今日は別用だ」
「勘弁してくださいよ。あれでも、精一杯協力したつもりなんだから」
男は、私がマサダという切り札をなくしたことで強気になっている。
ふてくされた態度から、それが容易に察しられた。
「今度は、高岡という男を捜している。昔、千成組にいた男で、当時は安岡と呼ばれていた」
「知りませんよ。だいいち、ここはヘルスなんですよ。ヤクザの出入りなんかありません」
「やつは覚醒剤(エス)の売人なんだ。殺人事件まで犯し、女連れでどこかに潜伏している。その女というのが新宿の風俗嬢らしいんだ。僕が知りたいのは、その女の名前」
「だったら尚更、俺に訊くのが間違ってますよ。俺が新宿の風俗嬢すべてと知合いだと思ってるわけ?」
私はその言い方に少し腹が立ち、右足を出す仕草を見せた。
一瞬、男はピクリとし、後ずさりした。
「とにかく、俺は知らないっスよ」
「じゃあ、風俗嬢に顔の利く人物を教えてくれ」
「顔が利く人物ですか…。そうですねぇ、ゴールデン街の入口に『もっこり倶楽部』というソープがあるんですけど、そこの支配人ならこの業界が長いから、何か知ってるかもしんないですね」
「名前は?」
「渡嘉野さん」
「いろいろと訊いて悪かったね。また来るかもしんないから、そんときもよろしくね」
私はそう言って、男に背中を向けた。
口で言うのも恥ずかしくなるように店、もっこり倶楽部は、ゴールデン街のちょうど入口に薄いブルーのネオンをチカチカと瞬かせていた。
私は入口まで行き、渡嘉野を呼んでくれるように告げた。
渡嘉野という男は、小柄でがっちりとした体型の、彫りの深い顔立ちだった。
名前からして沖縄出身であることは一目瞭然だった。
「ガサ入れの知らせっスか?」
男の第一声はそれだった。
「いや、事件捜査さ」
男は半信半疑な目で見つめ返してきた。
人懐っこい、子供のような瞳だった。
「覚醒剤(エス)を捌いている高岡という男を捜している。今、女連れで雲隠れしているんだ。その女というのが、新宿の風俗嬢。心当たりはないかい?」
「どういうことです?」
男は怪訝そうな顔を見せた。
「手掛かりが欲しい」
「だから、俺が高岡という人物を知ってるかってことでしょうか?それとも、そいつと逃げた女を知ってるかってことですか?」
見た目より隙のない男、と私は思った。
「どっちかに、心当たりがあるのかな?」
「俺は高岡という男は知りません」
「じゃあ、連れの女は?」
「シャブを食らってる女は腐るほどいるんです。この業界から突然消えてしまった女だって星の数ほどいる。そんなのをすべて疑えと言うんなら、新宿中のソープを廻ったって真犯人は捕まりませんぜ」
「売人と付き合ってる女、というのはそうそう多くはないだろ?」
「あのね、刑事さん。女の子はいちいち自分の付き合ってる男の素性なんか、俺らには話してくれませんよ。女同士でなら、しゃべってるかもしんないけどね」
「どうやら、訊くだけ無駄だったようだな」
「新宿中のソープを廻って、すべての女の子に訊いてみる。どうです?手始めに、うちで遊んで行ったら」
男の顔はにやけていた。
「やめとくよ。おまえみたいなやつのために金を遣うんなら、猫にあげたほうがマシだからね」
私は男が顔色を変える前に踵を返した。
私はこの日、そのまま『ヴォーグ』へ出勤し、帰宅後さっそく、パソコンを起動した。
予想と反して、一通のメールが来ていた。
メールアドレスは以前と変わっていなかった。
たまプラーザのあの場所から送ってることはあり得ないことで、どこか場所を変えてダイアルアップしているに違いなかった。
私はこのメールの中身だけは尊重し、すぐさま返事を書いた。