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Jポップと呼ばれる、私がほとんど聴くことのない音楽が大音響で流れていた。
ピンクがかった照明は極度に暗く、妖艶さこそあるものの、高貴な雰囲気はまったく感じさせない店だった。
30分まで飲み放題、五千円のセット料金。
私はビールを注文した。
「聞いたわよ。ナツミを捜してるんだって?」
私の隣に着いた女は丸顔で小太りの、よくしゃべりそうな女だった。
二十代前半だろうが、厚化粧のせいで、それを測ることはできない。
ライムグリーンのスーツに薄手のブラウスと、この種の店では品のよい方だろう。
私は新庄という風俗店の店長からの情報をもとに、歌舞伎町のキャバクラ『ぱぴぱぴドーム』に来ていた。
この店に高岡と付き合っていた女を知るホステスがいると聞かされ、それが利奈とは思えなかったが、とりあえずは話を聞こうと訪れたのだ。
「ナツミという名前なのか。どんな顔してたかな?」
私は尋ねた。
「えっ、どんな顔?」
女はそう言って、ゲラゲラ笑い出した。
「何がおかしい?」
「だってさぁ、あの店のお客さんじゃなかったの?顔も知らなかったわけ?」
またもゲラゲラ笑う。
「あの店って?」
「アニータという店。デリヘルよ」
「デリヘル?」
「デリバリーヘルスの略じゃん。とぼけちゃって。おもしろい人」
私はそう言われ、どういう店かはだいたい想像できたが、三輪の原付バイクに乗った女の子しか思い浮かばなかった。
「僕は、高岡の付き合っている女はソープで働いていると聞いた」
「ソープは、その前よ」
「じゃあ、君はそのアニータで、ナツミと一緒だったのか?」
「そうよん。でも、あなた、何を訊きたいわけ?ナツミのこと?男のこと?」
「両方さ。二人が今も一緒にいて、その居場所がわかれば、これ以上のことはない」
「う〜ん、困ったなぁ。今もアニータにいないとすると、彼女の居場所はあたしももわかんない。あたしの方が先に辞めてるんだ、あそこ。高岡って人だって、話しか聞いたことないし」
「アニータを辞めたのは、なぜ?」
「ん?あたし?」
女はそう言ってニヤリと笑った。
「彼氏がね」
「なるほど。じゃあ、訊きたい。ナツミっていうのは、どんなに子だった。どんな些細なことでもいい。詳しく教えてくれないか」
女は疑い深い視線を投げかけてきた。
「あなた、ナツミのストーカーじゃないわよね」
「ストーカーというより、ファンかな。サインを貰いたいと思ってる」
「あっそう」
「どうだ?ナツミはどんなかんじ?」
「どんなかんじって言われてもなぁ、ヘアスタイルはショート。まあ、化粧はうまかったよ。熟練してるってかんじ。自分では23歳って言ってたけど、あたしの勘では26は超えてるわね。化粧を落としたときの皺は隠せないってかんじ」
「ほかには?利奈と名のっていたことがあるとか、出身が島根だとか、両親を火災で失ってるとか」
「東京生まれだって言ってたよ。あたし、青森なのね。弘前ってところ。知ってるでしょ?」
「ナツミと高岡は、どういう付き合いだったのかな?」
「それがね・・・言っちゃっていいのかな」
「もろちんさ」
「このことはあまり言わないでね」
「もちろん」
「あの子ね、シャブ中だったんだ」
私は無言で女を見返した。
「かなりのとこ、いってたと思う」
「それで?」
女はしばし口を噤んだ。
「あの子『もうダメかも』って言ってた。幻覚が見えるなんて言ってたし」
「ダメかもって、何がダメなんだ?」
「あの子さぁ、なんか暗いもんを背負ってるようなかんじなのよねぇ。とっても明るいのよ。でも時折、すんごい辛そうな顔をするときあんの。死んでもいい、みたいな」
「そんなこと、誰にでもあることさ」
「えっ?誰にでもあることなのかなぁ」
「ナツミの居場所、想像つかないか?」
「たぶん、高岡って人と一緒よ。逃げられないって言ってたから。でなきゃ・・・」
女の症状が曇った。
「でなきゃ?もしかして、殺されてるってことか?」
「やっぱ、わかんない。そんなこと考えたくないわ」
女はそう言うと、そばを歩いているボーイを呼び止めた。
そして、言ったセリフ。
「人を延ばしてほしいの」
「おい、今なんて言った!」
私は女に向かって叫んだ。
「何よ、びっくりするじゃない」
「だから、今なんて言ったと訊いているんだ」
女は少し笑った。
「これねぇ、店の隠語なの。『人を延ばして』っていうのは『知合いの人だから、延長料金はとらないでね』って意味」
「すまん、帰る」
私は慌てて立ち上がると、急いで店を出た。
『延長はいらないって言ってるじゃん』という、女の言葉は耳に入っていなかった。
帰りの電車の中で、私が何度もつぶやいた言葉。
「人を殺してほしい、人を殺してほしい・・・」