本文へスキップ


MEMORANDUM−陶房雑記帳2011年2月

■修行の年数

よく“この道10年”とか、“10年早いよ”とか“石の上にも3年”とか言いますが、これは皆達人の経験を踏まえた言葉だと思っています。
  その昔、京都に住んでいたころに京舞の井上八千代さん(第4代井上流家元・人間国宝・現在は第5代に継承しておられる)の話を聞く機会があり印象的な言葉が記憶にあります。
  井上さんは“踊りの道で一流になるためには10,000時間の修行が必要です・・・”と話しておられました。
  仮に10,000時間を10年で達成しようとすると、一年で100時間、一年のうちに“その道”に打ち込める日数(稼働日数)が200日とすると、10,000時間を満たすためには一日5時間の修行が必要、ということになります。平均的な一日の労働時間が7時間としても、集中して取り組めるのはせいぜい5時間程度。
  このように考えると10という年月、10,000という時間は、一流になるためには必要な時間、“この道10年”という言葉が妥当な時間なのだな、と思えてきます。もちろん時間だけでなくその内容と集中度も大切な要素ではあるでしょうが。
  芸事を初めてまずは3年取り組んでみる・・・・このときの最初の3年の取り組み姿勢がその後の10年を決めてしまうような気がします。
  そう思うと“石の上にも3年”という言葉も説得力が出てきます。どのような仕事でも、芸事でも、スポーツでも同じではないでしょうか。
  ところで先日、ゴルフのレッスン会社を立ち上げたBさんと話していたら、4月に京都の都おどりを見物に行く予定とか。祇園の歌舞練場を使っての華やかな都おどり、本当に華やかです。京都に住んでいたころが懐かしくなりました。都おどりや鴨川おどりは、芸子や舞妓たちが日ごろの修行の成果を発表する場なのです。(2011.2.13)
            景徳鎮のプロたち→


■弘法窯展を見てきました

弘法窯は岐阜県可児市の陶芸家、月村正比古さんの窯です。月村さんは私の親しい友人Oさんの親戚に当たり、東京の大学で陶芸を学び、その後現在の地に移り住み築窯し作陶活動を続けておられます。何年か前にOさんご夫婦と一緒に可児市の窯を訪ねたことがあります。窯を見て作品を見て、近くの古い窯跡なども案内していただきました。自然の中の優雅なお宅で昼食をご馳走になりました。
  月村さんは私と同じ年齢ですが二人の息子さん(双子の海彦さん・山彦さん)がともに陶芸家として成長して、今回は弘法窯三人展ということです。月村さんは二人の息子さんの師匠であると同時に幸せなお父さんです。

  銀座の日本料理店「六雁」を使っての弘法窯三人展、雰囲気のある楽しいものでした。茶器・花器・食器等々、三人の力作が並んでいました。月村さんは五島美術館の陶芸教室などいくつかのサークルで講師をされたり、各方面で活躍されていますが、久しぶりにお会いしてお茶をいただきながら友達の話やら家族の話やら・・・・・。  あまり陶芸の話ができませんでした。またゆっくりと伺って話しを伺いたい、素晴らしいお人柄の陶芸家です。
  記念に黒織部と青織部のぐい飲みをいただいて帰りました。美味しい日本酒を注いで飲むのが楽しみです。(2011.2.10)

 

■魯山人の旧窯を訪ねる

友人のUさんの紹介で北鎌倉の閑静な山あいにある北大路魯山人の旧窯跡を訪ねました。今は陶芸家の河村喜史さんが基中窯として後を継ぎ活躍しておられます。河村さんの祖父・河村喜太郎さん(18991966)は京都や愛知県猿投で活躍した高名な陶芸家です。1959年(昭和34年)に魯山人が死去した後、この地にあった魯山人の陶房・星岡窯を、親交のあった京都大徳寺の立花大亀老師との縁で継ぐことになったということです。
  現代の河村喜史さんはお祖父さんの代から受け継がれている愛知県猿投の土を使い、父であり師であった河村又次郎さん(19302006)の下で修行しお父さんを亡くされた後も活躍しておられます。今春4月の横浜高島屋での個展の準備に忙しい中、快く迎えていただきました。
  山里の住宅地の細い路地を登ると次第に風情のある佇まいになり、星岡窯の跡地があらわれる。庭には大きな石畳が置かれて往時をしのばせる。
  早速、河村さんに境内を案内していただく。境内に崖をくりぬいた小さな随道があって、隋道の途中には土を作り貯蔵する室(むろ)もある。猿投から取り寄せた土を保存し陶芸用の粘土にしてゆく場所である。猿投の土は癖があり扱いにくいが焼き上がりの味がある、とのことです。
  隋道を抜けると窯があった。築後約80数年、幾つか手直しをしたということですが魯山人から引き継いだお祖父さんの代からの窯です。
  河村さんが丁寧に窯の構造と焼き方を説明してくださる。窯は登り窯です。登り窯はいわゆる穴窯とは違って、焼成にかなり細かい作業が必要で、ほぼ正確に3分単位で窯の両側から薪を入れて酸化と還元を繰り返し、温度調整をし、結果としては一昼夜程度で焼き上げてしまうとのこと。それでも窯焚きは年12回とのこと。
              基中窯→

  私はこれまで登り窯も穴窯も薪で焚く窯は同じように考えていましたが、登り窯は想像以上に燃焼効率がよいことを知りました。燃料はやはり松の薪とのこと。
  窯見学の後、お祖父さんの代に京都の大工を使って建てたという茶室のある建物で、奥様の立てた美味しいお茶とお菓子をご馳走になる。建物は簡素な中に品格のある造りになっている。床の間には大亀和尚の書が掛けてある。河村さんの作品が並べられている。しばし陶芸談義をし、至福のときを過ごしました。
  このところ寒い日が続いていましたがこの日は春を思わせる陽気でした。
(2011.2.3)


神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)