グループ展で発表を予定していた織部の陶板にひび割れができてしまいました。もう焼き直す時間の余裕もありません。苦肉の策で金継ぎをして修復することにしました。金継ぎは、割れたり欠けたりした陶器類を漆で接着し、繕った部分に金の装飾を施す日本の伝統的な技法です。
東急ハンズで金継ぎのセットを購入して、さっそく作業にかかりました。
まずは、ひび割れの出来た部分を埋める作業。乾燥した砥の粉を水で練りペースト状にする。ペースト状の砥の粉にほぼ同量の生漆を加え充分に練る。(これを「錆漆」というそうです。錆漆が割れた部分を埋めるパテになります。)
しっかり練った錆漆を陶板の割れ目にへらで押し込みます。錆漆を押し込んだら割れ目部分以外にもれた錆漆はテレピン油を付けた布かティシュペーパーで綺麗にふき取ります。そしてそのまま発泡スチロールの箱に濡れタオルと一緒に入れて一週間くらい乾燥させる。(漆は乾燥の為に、温度20℃前後、湿度80%前後が必要ということです。高い湿度で乾燥させる・・・不思議ですね。)
一週間して箱から出して乾燥したことを確認した後、割れ目部分に細い筆で生漆を丁寧に塗り、再度発泡スチロールの箱内で1〜2時間乾燥させます。
生漆が半乾きの状態で、金粉をやわらかい毛筆に付けて漆部分(割れ目部分)にそっと塗ります。真綿で金粉がまんべんなく塗れている様そっと撫でてゆきます。(半乾き状態で金粉を塗るタイミングが微妙に出来上がりに影響するようです。)
金粉を塗り終えたら再度乾燥用の発泡スチロール箱に入れて、完全に乾燥させて出来上がり。完全に乾くまでに一月くらいかかるようです。
以上、にわか仕込みの金継ぎ法でした。なお、ウルシカブレを防ぐためゴム手袋を付けて作業します。(2011.5.17)
金継ぎ→
今年の年初の当欄(陶房雑記帳2011年1月)にも書きましたが、今年は「青」をテーマに作陶をしています。
市販の「トルコ青釉」を掛けて焼いたぐい呑みを友人に差し上げたら、“深海の青”を思わせる、という評価がきました。
うれしくなって自分なりに資料を調べ“トルコ青”を調合し、焼いてみたらまずは失敗・・・・釉薬が流れて、てかてか光って余計な貫入(細かいひび割れ)が出来て、想定外の出来映えでした。
そこで、流れ防止に“蛙目粘土”(がいろめねんど=粘土の中に多量の石英粒などを含むため雨などに濡れると石英の粒が蛙の目のように光って見えることからこの名前ができたようだ)を重量比で10%加えテスト焼きしてみたら、流れることもなく割合面白い青が出来ました。
銅系の青、コバルト系の青、天然の灰が還元焼きで発色する青、等々・・・・青には多くのバリエーションがあります。
中国では古くから「雨後天青」という言葉があります。この言葉は“雨上がりの雲の切れ間に見える青空の色”を表現したい、という陶工たちのひたむきな願望を表しています。
コバルトによる染付け技法は中国では青花とか青華(どちらも「チンフア」と読む)といわれています。コバルトが焼物に使われたのはペルシャ(イラン)が起源といわれていますが、ペルシャから陸路中央アジア(シルクロード)を通って中国へ、あるいははるばると南の海を渡って中国へ。
そして中国で花開いた青花・青華は、南に渡ってベトナム安南染付に、北に渡って朝鮮半島の李朝染付に、更には日本の伊万里に・・・・青は多くのロマンを含んでいます。そしてその流れを調べると推理小説を読むより心躍ります。
私の「青」への拘りはまだ始まったばかりですが、少しずつ試行錯誤しながら探ってゆきたいと思っています。
(2011.5.17)
↑青の試作品
3月11日の東日本大震災のあと、被災された方々のために自分として何が出来るか?と思っているのですが、ささやかに義援金を寄付する程度で、あとは一日も早く皆さんが元気に立ち直ることを祈るばかりです。
あの大震災以降、計画停電がなくなってほっとして初めての窯焼きを4月12日に行いました。私の窯は灯油を電磁ポンプでバーナーに送って焼く構造になっているので停電されてはどうしようもありません。
朝の3時に点火して、あとはともかく余震が来ないことを祈りながらの窯焼きになりました。
余震がこないことを祈っていたのですが・・・昼過ぎ、窯内の温度が1000℃位になったときに、案の定、ぐらっと来ました。震源地は茨城県北部で神奈川県下は震度3くらいとのこと。
急いで窯のところに飛んで行きしばらく様子を見て、そのまま焼き続け何とか夜9時には火を止めて無事焼き上げました。
通常、900℃くらいまでは窯内の炎が静かなのでそれほど心配ないのですが、1000℃を超えるようになってくると、激しく音を立てて燃えるので頻繁に見回って燃料や空気の調節をするようにしています。地震で危ない、と思ったら電源コンセントを抜けば給油ポンプが止まるので、大事には至らないはずなのですが、一度火を止めるということは、急速に窯の中の温度が下がるので、再点火できてもかなりの時間のロスになるわけです。(焼成中に電源を切って、しばらくしてから再点火するときには、窯内で急速に気化した燃料が爆発することを防ぐため、必ず燃料を少しずつ出して徐々に炎を大きくしてゆくよう注意しています。)
窯の構造は厚手の耐火煉瓦でしっかりと作られているので、万が一窯が壊れても高熱の作品が飛び出さない限り心配は無いのですが・・・、中の作品が揺れて隣の作品にくっついてしまう事もあるので窯出しするまでは心配です。陶芸の町として有名な栃木県の益子、茨城県の笠間、福島県の相馬でも大きな被害があったようです。登り窯で焼こうと思って窯詰めが終わったら地震で窯が崩れてしまった。仕方なく作品を電気窯に移して焼いたが余震のために作品がくっついてしまった・・・・というような苦労ばなしが朝日新聞(4月13日夕刊)で報告されていました。なお、福島県の相馬焼は福島第一原発から20キロ圏内にあるのでほとんどの陶工の方々が現在避難中で、製作活動は行われていないようです。(2011.5.1)
↑高倉陶房の新緑
窯から出して出来上がりがあまりパットしない花瓶に花を生けたら花も花瓶も生きてくる。真っ白で何の変哲もない食器に料理を盛ったら美味しそうに見える。近くのスーパーから買って来たパック入りの握り寿司でも手造りの器に並べたら高級すし屋に入った気分になる。
花器・食器・酒器などは本来使われることによって良く見える、生けた花が綺麗に見える、食べ物が美味しく見える、盛った酒が旨く感じる、ということが大切なことは言うまでもありません。先日、知り合いのすし屋のご主人と話していたら、マグロをお客さんに出すときには赤みが引き立つように青か緑色系の皿に盛る、と話していました。
私は、素焼きした粘土の素地に下絵の具で草木花の絵を描いて、土味を出すために半透明系の釉薬を薄くかけて還元焼きする、という作り方をよくします。
一般的に陶の表面に描く絵には上絵(本焼後の作品に上絵の具で描き800℃前後で焼き付ける)と下絵(素焼きした作品に下絵の具で描き1200〜1300℃くらいで本焼する)がありますが、私は基本的には下絵だけで表現しています。
上絵を施した作品と下絵だけの作品の一番の違いは、上絵作品は比較的派手になりやすいが下絵作品は割合地味で素朴な表現を出しやすいし、土味を残すこともできる、ということです。
焼きあがって窯から出して、予定通り素朴な雰囲気で土味が出ているとほっとするのですが、どんな料理を盛ったらこの皿に合うかと思うとはたと考えてしまうことがあります。
結局、器に絵を描くということは、ただ見て良いと感じる器を目指すのか、見ても使っても良い器を目指すのか?最初から目標を決めておく必要があるのかなと思います。「用の美」すなわち使って美しく感じるものを作っていきたいと思っています。(2011.5.1)
↑土味のする作品
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)