このところ“香る陶”、 つまり香炉・香合などの製作に興味を持っています。日本的な和の香炉、シルクロードの香りを感じさせるようなオリエンタルな香炉など、香炉作りは“香り(煙)を出す”という目的さえ満たせばあまり多くの制約がないので自由な造形ができて楽しい作陶です。
もともと香炉は仏具として多く使われているようですが、一般の家庭でも良い香りを楽しむということで床の間や玄関において使われています。また、消臭の目的でも使われますので、料理屋さんやバーのトイレなどに香炉が置いてあって、品の良い香りが流れていると何となく洒落ているなと感じることがあります。
夏場の蚊取り線香入れは蚊を撃退するのが主目的ですが、蚊取り線香の香りには何となく昔懐かしい風情があります。
ハーブ(香草・茶葉)に熱を加えて香らせる香炉(茶香炉)も楽しいものです。高倉陶房の棚にはいつも茶香炉が置いてあります。ときどき庭の片隅に植えてあるローズマリーやラベンダーの葉をちぎって採って、香炉の上の小皿において下からローソクの火で熱を加え芳香を楽しみます。自然の香りが漂っていると何となく落ち着き作陶に集中できるようになります。ハーブは生の葉をそのままのせて熱で暖めるよりも乾燥させた葉のほうが良い香りがするようです。
お香の形にも線香・コーン(円錐)型香・コイル型香・抹香・練香などいろいろあるようですが、ここでは詳細は省きます。なお、香道で使うのは香木(芳香を放つ木材)ですが、有名なのは白檀・栴檀などの熱帯地方原産の樹木が多いようです。
↓オリエント風(?)の蚊取り線香入れ
香炉つくりのポイントは、蓋付きのものは本体と蓋の部分の合わせがスムーズであること、煙がこもらないこと、そして季節感があると楽しいですね。茶香炉は下からローソクの熱を当てることになるのでローソクを出し入れする口が必要になります。夏の香炉にむくげの花を、秋の香炉に菊の花を描いて見ました。
お香を焚かなくても、香炉を見ただけで芳香が漂ってくるような素晴らしい香炉ができれば最高なのですがね。(2012.3.20)
藤沢市民交響楽団で首席オーボエを担当している馬場邦男さんは高校から大学まで同窓の友人です。(本人は「首席オーボエ」ではなく「酒席オーボエ」だと言っていますが。)今は交響楽団でオーボエ奏者として活躍していますが、私の耳には高校時代に教室の窓辺で彼が演奏してくれたクラリネットの「鈴懸の径」や「小さな花」のメロディーが今も残っています。
昨年秋に同じ高校の同窓会で磯部周平さんのクラリネットを聴きました。磯部さんは私たちよりも6年後輩ですが、NHK交響楽団(N響)の首席奏者として活躍された日本を代表するクラリネット奏者です。2009年にN響を退団して現在はソロ活動に専念しています。同窓会ではシューマンやブラームスのクラシックを何曲か演奏していただいたのですが、OBたちのリクエストに応じて「鈴懸の径」や「メモリーズオブユー」などの軽い曲も演奏してくれました。
「オペラ歌手が演歌を歌うようなものですから・・・」と謙遜しながらの演奏でしたが、さすが基礎ができている人は専門外の領域もすばらしい。馬場邦男さんと磯部周平さんのクラリネット、私にとっては高校時代を思い出す懐かしい響きです。
昔、京都で仕事をしていたころ、先斗町のカラオケバーで南座に出演していた若手歌舞伎俳優たちと居合わせたことがあります。そのとき彼らが余興に当時の流行歌を歌い始めました。名前も知らない若手俳優でしたが日ごろ大きな舞台で声を鍛えている歌舞伎役者、歌声も素晴らしいもので聞き惚れた記憶があります。
有名な画家で素晴らしい陶芸作品を残している人がいますが、中川一政(1893~1991年)もその一人と思います。 ↓私の大壺(中川一政写)
もう20年くらい前になりますが、真鶴の中川一政美術館で初めて大壷(つくばい)を見たとき、そのダイナミックでのびのびとした表現に驚いたものです。独学での陶芸ということですが、やはり一流の画家には絵筆でも粘土でも見る人に訴える表現力が備わっているものだと感心しました。そのころ中川一政の大壺を真似て製作したものが今もわが家の軒下に鎮座しています。
以上に書いたいくつかの例で言えることは、鍛え上げられたその道のプロは専門外の領域でも素晴らしい技量を発揮する、基礎がしっかりしているから応用が利く、ということだと思います。(2012.3.8)
山本安朗さんから個展「琵琶鉄焼と煤(すす)書き展」の案内をいただいたので訪問してきました。会場は鎌倉小町通りと若宮大路の間の路地を入った「Galleryジ・アース」。
山本さんとは約25年ほど前に個展会場でお会いして以来のご縁です。
東名高速道路の大井松田インターから程近い松田山の中腹に山本さんの「龍の背窯」があります。琵琶鉄焼とは琵琶湖の近辺で掘り出した鉄分を多く含む赤土を使っているので付けた名前とのこと。独力で作ったアトリエで作陶をして、独力で築いた穴窯で焼き、書も蕎麦打ちもこなす、多芸な方です。
釉薬をかけないいわゆる“焼締め陶”にはいろいろありますが、多くの焼締めは自然釉の流れを楽しむものが多い。つまり、燃料となる薪が灰となり、その灰が作品に降りかかり、高熱で溶けて陶の表面を流れる。しかし、山本さんの作品の特徴は自然釉流れを見せる焼締めではなく、焼成による土の地肌の変化を楽しむ焼締めで、これを一般に南蛮焼締めといいます。
窯の中の場所によって黒い焼き上がり、緋色の焼き上がり等があり、その変化(窯変・ようへん)を楽しむことになります。変化をもたらす要素としては、粘土の質・炎の流れ・温度と時間・火の神様の気まぐれ・・・等々、いろいろあるのでしょうが。
山本さんの個展はいつも趣向を凝らした楽しいものです。自分で打った蕎麦を振る舞いながらの個展、華道家とのコラボレーション、そして今回は窯から採れた煤を使った自作の書。
案内はがきに添えられた言葉も魅力的です。
“一年の時をかけて土と薪を用意して、ロクロのおもむくままに形を造り、二週間の窯詰めののち、8日間焚き続けます。窯の要求に従い薪をくべ、高さ1.5m、長さ8mの「穴窯」の中を、炎はゆっくりと走ります。仕上げの「攻め焚き」ともなると、窯は唸りをあげ、煙突からは黒煙がSL機関車の如く出ていきます。その「煤」(スス)を採取して、「字」を書いてみました。梅の香、薫るこの季節、ぶらり鎌倉散歩と洒落こんでみては・・・?”
ギャラリーでは山本さんの茶碗に抹茶そして鎌倉の和菓子をいただきながら、作品を見て、書を見て、窯焼きの話しを楽しみました。(2012.3.1)
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)