横浜市民ギャラリーで開かれている「神奈川の土と石を焼き物に」展を観てきました。この展示会を主催している陶研究会は、土の採取、土作り、自然界から採る釉薬作り、など陶芸の原点とも言えることを楽しんでいる方々の集まりです。
会場はまさに陶芸展というよりも粘土作り・釉薬作り・窯作りの研究発表会という雰囲気でした。会場で配布された資料には陶研究会の趣旨が次のように書かれていました。
:陶芸の原点を求めながら
:時間と手間のかかる「土採り」「土作り」
:自然界から採る「釉薬」作り
:よりよい炎を求めた「自主窯作り」
などを通して、個性を持った趣のある作品作りに挑戦
会場風景
神奈川西部丹沢近辺、中部湘南地方、東部三浦半島など各地で採取した土をいくつかの条件(温度・焼成方法など)下で焼いて、多くのテストピースをつくり、焼き上がりの発色や雰囲気を比較検討している。
また耐火度の低い粘土については、長石などと混合して釉薬としてのテストピースを作っている。さらに草木灰を原料にした釉薬の研究など。植物の種類によって釉薬(自然釉)にした場合の発色が異なるわけです。
三島からこの会に参加しているという八木弘明さんの展示についてご本人から説明を受けました。八木さんの発表は小田原酒匂川河畔で採取した土と、三浦半島衣笠で採取した土から、長石を混合した釉薬を作り、信楽の粘土をボディー(胎土)にして、混合比率と焼成(酸化・還元)による発色の変化をテストピースにしたものでした。
出展している皆さんがそれぞれ“焼き物の原点”を追及している、そして楽しんでいる雰囲気が会場にあふれていました。陶芸の原点を確認するという意味で私にとっても有意義な発表会でした。(2012.4.24)
神奈川県立「藤野芸術の家」は楽しい場所です。相模湖から程近い山間にあるのですが、陶芸をはじめとして木工、ガラス工芸、絵画など芸術全般を楽しめる「ふれあい・体験・創造」をテーマに設立され運営されている施設です。
安い料金で泊まれる宿泊施設もあるので、何日か宿泊して集中的に芸を習得し楽しみたいという方にはもってこいの場所かなと思います。
藤野芸術の家のすぐ傍らに「ふじのアートビレッジ」があります。この界隈に住むアーティストたちの発表の場です。
やっと春らしい陽気になった一日、近くに出かけたついでにぶらりと立ち寄りました。陶芸あり、木工あり、染織あり、ガラスあり、楽しいギャラリーが並んでいます。
陶芸作品が並んでいるギャラリーに入り、ジェンギズ(日本名は「成吉思」)さんに会いました。初対面、気さくで優しそうな方です。ギャラリーにはブルーのトルコ釉がかかった作品や、結晶系のラスター彩のような雰囲気の釉薬がかかった作品が並んでいます。
↓ギャラリー前でジェンギズさんと
聞けばジェンギズさんは、1966年にトルコ共和国に生まれトルコの大学で陶芸を学び1991年に来日、益子の㈱つかもと(旧・塚本製陶所)で研究生として陶芸修行をした後、山梨県の上野原市で成吉思窯を築いて独立、とのこと。
私は“トルコの陶芸家”と聞いただけで何となく魅力的な響きを感じ、憧れを感じてしまいます。東アジアから見ればシルクロードの先にあるトルコ、ヨーロッパから見ればオリエント急行の行き着くところ、トルコのイスタンブール。
私は昨年秋にシルクロードの敦煌まで旅して、やきものの東西文化・技術交流などを少しずつ勉強していますが、必ず出てくるのがイラン(ペルシャ)やトルコなどの中近東の国々です。
ジェンギズさんは私の知らないトルコの陶芸に関して、いっぱいの情報を持っている魅力的な人、ということになるわけです。
ジェンギズさんの作風は、トルコの伝統的文様を削りだしたものや明るいトルコ釉薬などを使ったものなど、やはり日本的な作品とはちょっと違った独創性を感じました。(2012.4.9)
6月のアート展のための香炉を作っていて、ふと昔読んだ陳舜臣の短篇小説「青玉獅子香炉」を思い出し何か参考になるかと思い再読してみました。この短編は北京の故宮博物院で名品といわれた「青玉獅子香炉」が台湾の故宮博物院に向かって移送される過程の出来事を、事実に基づいてフィクションにしたものです。
この小説に出てくる青玉獅子香炉は翡翠(翠玉)を加工彫刻して作られたもので陶芸品ではありませんが、名工といわれた小説の主人公が香炉を作る姿勢は何となく参考になるかなと期待して読んだわけです。
北京の故宮博物院は、1924年に中国最後の皇帝といわれた溥儀が紫禁城を出た後、宮殿内で清朝が保有していた膨大な量の美術品などを一般公開したのが始まりといわれています。
その後、中日戦争が始まり更には国共内戦が激化、蒋介石の国民政府(1948年からは中華民国政府)の時代に多くの美術品を疎開させ、戦禍から免れるために上海・南京・重慶などの地方を転々と移動させた後、最終的にはその多くが台湾の台北にある故宮博物院に落ち着いたという事実があります。
私自身、北京の故宮は何度も訪問しているのですが、優れた美術品のほとんどは台北に移されていると聞いていたので、建物の内部に入るよりも庭を歩いて映画「ラストエンペラー」に出てくる広大な宮殿建築や楼閣を眺めたり、景山(裏山)に上って全体の雄大な景色を楽しんだりして、故宮内部の文物等をあまり見ておりません。
↓北京故宮にて友人と(2011年9月)
一方、台北にある故宮博物院は北京の故宮博物院の所蔵品から精選された数十万点といわれる書画文物が移されたのちに建設されていますが、その膨大な所蔵品の数から世界の四大博物館のひとつといわれています。(調べると、世界の四大博物館とは、台湾の故宮博物院とニューヨークのメトロポリタン美術館、サンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館、パリのルーブル美術館を指すようですが、ロンドンの大英博物館を入れて五大博物館という説もあるようです。)
台北の故宮博物院は二回訪問した記憶がありますが、やはり有名な「翠玉白菜」が印象的で記憶に残っています。翡翠の白い部分と緑の部分をうまく使って白菜を彫り上げているものですが、そのみずみずしさはさっそく鍋物にでも入れて食べたくなるような名品です。(2012.4.1)
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)