昨年の3月11日の大震災・原発事故で大被害を受けた福島県浪江町の大堀相馬焼の方々を訪ね励ますために笠間を訪れました。(当ホームページ「旅の記録」笠間陶炎祭2011年5月を参照ください。)あれ以来、大堀相馬焼のその後がずっと気になっていました。
日本経済新聞5月10日版(夕刊)に朗報が掲載されました。
“福島県浪江町の陶器「大堀相馬焼」が今夏、復活する。事故が窯元を直撃し、避難を余儀なくされた。東北地方最大の陶器の町から離れて1年以上。「伝統の灯は消したくない。」避難先の同県二本松市で新たな工房をつくり、国指定の伝統工芸品の再開に意欲を燃やす。(中略)浪江町民が集団避難する二本松市にガス窯を備えた工房を完成。湯飲みで一度に約600個を生産できる体制が整う。陶芸教室や直売所も併設。試し焼きを重ね、生産再開は7月末を目指すという。”
一方、事故後、神奈川県秦野市に移り住みがんばっている陶芸家、亀田大介さんもいます。以下、朝日新聞1月4日版より。
“秦野市の妻の実家に身を寄せた。仕事を再開するため、日本画家の義父が以前アトリエとして使っていた小屋を工房に改修した。家族四人で画材を片付け、朽ちた床に新しい板を敷いた。ろくろや作業台は焼き物仲間が送ってくれた。浪江の窯は汚染されて、もう使えない。痛い出費だったが、新しい窯を買った。(中略)父親として、陶芸家として、いまが踏ん張り時だ。そう自分に言い聞かせ、ろくろを回し、土を削る。”
平穏に福島県浪江町で伝統工芸を守り創造していた人たちが、ある日突然、天災と人災により多くの大切なものを失ってしまった。
二本松市に蘇える大堀相馬焼、そして秦野でがんばっている亀田さん、今後とも“同業者”として注目し陰ながら応援してゆきたいと思っています。(2012.5.18)
↑相馬焼二重構造の湯飲み・私は化粧土の容器として使っています
善さんの個展を訪問してきました。
善さん、本名前田善三郎さんは、急須作りに専念されているので私たちの仲間はみな“急須の善さん”と親しみをこめて呼んでいます。
15年ほど前、善さんが韓国の檀国大学陶芸研究所で修行中のころにソウルを訪問し、大学の教室(実習室)や明洞のギャラリーを案内していただき美味しい韓国料理とマッコリをご馳走になったこともあります。韓国での修行を終えて帰国してからは、八王子に窯を構え“急須”づくりに専念しておられます。
2007年に韓国ソウルで個展を開催したときのご案内状が印象的だったのでここに転記させていただきます。
“今回の個展では韓国の土で茶碗を作ってみました。そのため3月に約2週間ほどソウルより約200キロ離れた山中で自ら登り窯を炊きました。屋外では最近見たことのないほどの満天の星空でした。自然の雄大さと美しさに魅せられながらのひと時でした。その時の感動を感じていただければ幸甚です。”
今回の個展は築地のギャラリー「茶の実倶楽部」です。お茶屋さんが経営するギャラリーで美味しい新茶をいただきながらの鑑賞となりました。
作品は全体的に前回に比べて、色調が華やかになったように感じました。渋い雰囲気に加えて、赤・コバルトブルー・銅系の緑・ライトブルー・鉄赤系・・・など会場には色とりどり、大小の急須が並んでいました。
すべての急須に善さんの技術と情熱と愛情が凝縮されている、という印象でした。特に直径数センチという小さな急須、2-3ミリ程度の注ぎ口の作品に関しては、思わず善さんの太い指を見ながらどうして小さく繊細な急須が出来上がるのか、ろくろ成形の苦労ばなしなどを伺いました。急須づくりは、本体・注ぎ口・取手・蓋と4個の部品を作りそれらを組み立てる(どべで接続する)という細かい作業があるので小さくなればなるほど大変です。また特に出来上がりの使いやすさ、茶の注ぎやすさ(茶こぼれがないか)などに関しては微妙なノウハウが必要です。
そして窯焼きや釉薬の表現のむつかしさなどあれこれ陶芸談義をしました。会場壁面には奥さんによる拓本や書の表装作品が掛けられ楽しい個展でした。
二年ほど前には大病をされた善さん、しばらく作陶活動を休んでいたのですが見事に復活。善さんの復活を祝福し、ますますの健康と活躍を祈念したいと思います。(2012.5.13)
善さんご夫妻と→
陶房にある古い窯で素焼きをして、釉薬をかけて本焼き前の最後の仕上げをして、竹薮の横にある本焼き窯まで板の上に載せて運びます。陶房から竹薮までの数十メートル、転んで作品を板から落としてしまったらこれまでの時間と努力が水の泡、転ばないように注意しながらの運搬です。自分の作品ならあきらめがつきますが、高倉陶房の仲間たちが一生懸命に作った作品を壊してしまったら大変なことです。
昔から“一焼き、二土、三作り”という言葉がありますが、最近特に窯焼きの大切さを感じます。“窯に入れて点火してしまえば、後は火の神様頼り”という言葉もありますが、それでも気合を入れて焼いた場合と気を抜いて焼いた場合とでは神様の思し召し(焼き映え)に大きな違いがでてきます。
私の場合、点火から消火までは平均18時間くらいかかるので、通常は朝2時半に起きて3時に点火して夜9時くらいに火を止めるというのが標準的な窯焼きパターンです。しかし疲れていたり忙しかったりして、“最後の粘り”を省略して、単純に窯内の温度が目標に達したらよいだろうと思って火を止めてしまったときなど、どうも期待はずれの“生焼け”になってしまうことがあります。
窯の覗き口から出る炎の色と大きさ、煙突から出る煙の量、送り込む空気の量、これらを微妙に調節しながら、そして経験的に窯の中の変化を想像しながら焼いてゆきます。常に“一窯入魂”で焼くように心がけています。
早朝、というよりも深夜の二時半に起きるのは真冬の寒い時期は結構つらいですが、新緑の季節には“ちょっと早起き”気分ですがすがしいものです。竹の子も今年は遅くて4月半ばを過ぎてやっと顔を出してきました。6月末から開催される恒例の藤沢三田会アート展向けの作品がいくつか入っていますので、火を止めて二日後の窯開けが楽しみです。(2012.5.1)
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)