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MEMORANDUM-陶房雑記帳2012年9月

■横浜焼

横浜焼という焼物があることは前から知っていましたが、これまでは興味もわかず見たいとも思っていませんでした。今回、友人たちとの昼食会で中華街に出かけたついでに、横浜焼を継承しているという「横浜増田窯」を訪ねてきました。元町のメインストリートからちょっと外れた坂道の途中に横浜増田窯はありました。
 横浜焼は陶芸家の宮川香山(真葛香山・京都生まれ・1842―1916)が起こしたといわれています。当時、香山が造る焼き物は海外では「マクズ・ウェア(真葛焼)とも呼ばれ、1873年(明治6年)に初めて出品されたウィーン万国博覧会では名誉金牌を受賞し、その後世界の万国博覧会で数々の最高賞を受賞しています。
 以来、横浜の焼き物は宮川香山を筆頭に世界から注目を浴びるようになり、海外からの需要も増え、日本各地から続々と陶工たちが一旗揚げようと横浜に開窯するようになったといわれています。しかしながら三代目宮川香山のときに横浜大空襲(1945年)があり壊滅的な被害を受け、四代目が継いだが復興はならなかった、ということです。
 横濱増田窯は店頭の資料によれば、世界を一世風靡した「横浜焼」の伝統と精神を受け継ぐと同時に現代の感覚と生活空間にあったテーブルウエアーを造るため、初代・増田博と横浜焼に携わっていた数名の職人らが1965年に開窯したとのことです。
 店番をしていた女性に尋ねたところ、現在は別の場所で絵付けだけを専門にしているということでした。店内には綺麗な横浜らしいデザインのテーブルウエアーが並んでいる、横浜元町という洒落た雰囲気の街の一角でした。
                        ↓横浜増田窯の店先
 しかし、焼物・窯場というとどこか土臭い、粘土埃のある場所を想定している私にとっては、ちょっと期待はずれの訪問でした。
 日本のやきものの多くは粘土が産生される土地の名前を付けて呼ばれているところが多いのですが、横浜焼は特徴的な横浜のデザイン(意匠)を売り物にした焼物であって、恐らく粘土は(あるいは上絵を施す磁器製品そのものは)他の地方から取り寄せていたのではないかと思われます。粘土の質によって焼き上がりの雰囲気が変わってしまう焼物(たとえば、備前焼・信楽焼などの焼締め陶や一部の青白磁など)と異なり、下絵や上絵などのデザインを主とした焼物の粘土はほかの土地から調達してもなんら問題ないわけです。(2012.9.26)

■やぶ蚊軍団との戦い

夏になると高倉陶房の庭はやぶ蚊天国です。なるべく自然のままの庭にしておきたいので雑草も生い茂ったままにしていますが、そのこともやぶ蚊の楽園になっている原因ではないかと思っています。
 庭においてあるいくつかの陶器の甕に雨水が溜まって、そこにぼうふらが湧きやすいのでときどき甕の水はこぼしているのですが、それでも蚊は何処からか発生してきて自由を謳歌しています。
 空き缶や竹の切り株など普段気が付かないような小さな水溜りからも発生するようです。いずれにしても高倉陶房の庭はやぶ蚊天国なのです。
 半ズボンやランニングシャツのままで庭に出たりすると、たちまち攻撃され餌食になってしまって、素肌がぶつぶつ膨れ上がってしまいます。
 そんなわけで庭掃除や草取り、樹木の選定などのときは、肌を狙われないように長ズボンに長袖シャツ、頭には手ぬぐいを載せ帽子をかぶるという完全装備で行います。それでも敵は人(蚊)海戦術でやってきます。薄い靴下を履いているとその上から刺してきたり、油断ならない相手なのです。
                        ↓やぶ蚊の温床すいれん鉢
 そんなことで蚊取り線香とキンチョールは家の軒下や窯小屋など庭の各所にいつでも使えるように設置して、家の外での作業ではこれらをフル活用することになります。そのうちに大日本除虫菊株式会社から表彰状がこないかと思っていますが。
 ところで、蚊の能力は人間の能力をはるかに超えた素晴らしいものがあるようです。まずはその口の針。蚊の針は人間の肌に瞬時に刺しこんで痛みを感じさせることがない!蚊がヒトを刺す技術を応用して痛くない注射針を開発するという研究も進んでいるようです。
 更には攻撃のスピード!草むらのどこかに隠れていて瞬時に目標物まで飛んできて刺す。多分、垂直離陸も高速飛行も可能な高度な機能を持っているのだと思います。米国海軍の垂直離着陸輸送機オスプレイももっと蚊の機能を見習って安心できるような構造にして欲しいものです。(2012.9.14)

■真贋

私の書棚に「真贋」(東興書院)という書があります。キリンビールの社長・会長を歴任された荒蒔康一郎さんからいただいたものです。著者は荒蒔さんの大学時代の友人の落合莞爾さん。平成4年に大阪府岸和田市で開催された「東洋の官窯陶磁器展」を巡っての贋作騒動の真相を追ったドキュメント力作です。
 美術工芸品の世界では古今東西多くの真贋騒動がありますが、どうも“欲”が絡むから騒動になるのであって、欲がなければ真(本物)だろうが贋(偽物)だろうが、正直に作品の評価(良し悪し)をして楽しめばよいと私は思っています。
 しかし一方では欲(金に対する欲・名誉欲など)があるから面白いということにもなります。テレビの「開運!なんでも鑑定団」が長寿番組で人気のあるゆえんだと思います。
 本物でも駄作は多い、一方偽物でも素晴らしい、と感じるものがあります。
 骨董品の場合、ただ古いというだけで高値がついているものも多くあります。中国の骨董商と取引をしていた友人の話では、新しい陶磁器を骨董のように古く見せる裏技の世界があるとも聞きました。
                        ↓中国の古い(?)水差し
 私の手元に中国の古い(?)小さな水差しがあります。10年ほど前に中国北京の友人何泰山さんと骨董屋で薦められて買ったものです。あの時、何さんは“これは古いものですよ”と言っていたのですが、真偽のほどはわかりません。多分“偽物”だと思っています。茶色の飴釉のようなうわぐすりがかかって薄汚れたものなのですが、じっと眺めていると結構楽しいものです。
 飴釉は鉄分などを組成として飴色に発色する伝統的な釉薬なのですが、中国の古いやきものを調べてみると北宋時代11世紀に同じような形と雰囲気の水差しがある・・・もしや、私の水差しは1000年前のものか!!
 この薄汚れた水差しが何処でどんな昔に、どんな陶工によって作られたのか?と想像しながら、ぶらぶら歩いた北京の骨董屋街などを思い起こすと、眺めているだけで楽しいものです。(2012.9.14)


神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)