1970年代の初めのころに三重県四日市市に住んでいました。市内から車で15分程度の井倉という小さな部落で、湯の山温泉に通じる街道沿いののどかな場所でした。当時は四日市コンビナートの公害問題なども騒がれていたころでしたが、郊外に出れば鈴鹿山系が美しいし伊勢志摩のほうに出かければ魚介類も旨いし、住みやすい場所でした。
住んでいた借家の近くに萬古焼(ばんこ焼)の窯元がありました。窯元の名前は忘れましたが、焼成前の茶器や食器などの大量生産品が庭に干してあったのを憶えています。窯元というよりも焼物工場というような雰囲気の場所でした。
当時はサラリーマンとして“働き盛り”のころでしたので陶芸製品を楽しむ余裕はなかったのですが、町を車で走っていると萬古焼の看板をよく見かけ何となく興味を持ったものでした。
先日NHKのテレビを見ていたら鍋料理に必須の土鍋の70~80%は萬古焼の製品が占めているとのこと。アフリカジンバブエ産の鉱石「ペタライト」の粉を粘土生地に混入することにより、割れにくく強い土鍋を開発したために大きなシェアーを確保するに至ったようです。ペタライトを加えることにより熱による粘土の膨張率を低く抑え、たとえ空だきしても割れないような土鍋つくりに成功した、ということです。
萬古焼の生産は江戸時代に現在の四日市市で始まったようですが、地元では良質の粘土が産生されないということでずっと他産地の粘土に頼ってきたようです。土鍋用の粘土の開発はこの土地によい粘土が採れないというハンディキャップを「ぺタライトの導入」という技術革新で補って地場産業を栄えさせた好例だと思います。
調べるとペタライトはパワーストーン(霊石)としても有名で、人生をポジティブに転換したい・魂を癒したい・悩みや苦しみから解放されたい、というようなひとがこの石を持つと効果があるということです。パワーストーンの入った土鍋で一家団欒の食事をすれば癒される・・・何となく頷けるペタライト効果ですね。
三重県内には、萬古焼のほかにも伊賀焼(伊賀上野市)や川喜田半泥子ゆかりの陶苑や茶室などがあるので、若いころに住んだ場所を訪ねながらまた旅してみたいと思っています。(2013.2.23)
朝の食事をとりながら窓の外を見ると陶製の水浴び鉢でメジロが水を飲んでいます。この家に住んで今年で26年になるのですが、住んですぐに庭の二箇所に小鳥の水浴び場を作りました。陶製の水遊び鉢は竹の棒で支えてあります。鉢はろくろで挽いただけの簡単な作りですが、鳥が止まりやすいように縁の部分に連続模様の穴をあけてあります。
ひと頃はパン屑や小鳥用の穀類も入れたえさ台を用意していたのですが、今は水浴び鉢だけです。パン屑を置いていたころには毎日定期的にオナガが群れを成してきてくれました。オナガの姿は美しいのですがギイギイと鳴くハスキーな声はうるさいくらいでした。
水浴び場の常連は、ヒヨドリ、シジュウカラ、鳩などですが、今多いのはメジロです。私の観察している限り鳥たちの行動はカップルか群れを成してくるかどちらかで、単独行動はありません。一羽で水を飲んでいても必ず近くの葉陰にもう一羽います。(小鳥の夫婦は仲良いですねえ!)
メジロは庭の椿の花蜜がお目当てなのですが、秋咲きの椿が散ってから二月になって春咲きの桃色侘助などが開き始めました。花が盛りになると必ず葉陰にメジロかヒヨドリがいます。そしてメジロが仲良く水を飲んでいるとヒヨドリがそれを追い払うようにやってきます。
小鳥のための陶、もう一つは陶製の巣箱です。高倉陶房の庭木には毎年木製巣箱をいくつか設置するのですが、うち2、3箱には小鳥が入ってくれて、五月の連休が過ぎて新緑が濃くなる頃に雛が元気に飛び立ちます。巣箱に入ってくれる小鳥はほとんどシジュウカラです。
数年前に陶で巣箱を作って庭においてあるのですが、陶の巣箱は木で作った巣箱よりも冷たい感じで入りにくいのか空き家のままです。どうやら入口(玄関)がちょっと大きすぎたのも原因のようです。
空き家の陶製すばこ→
小鳥は外敵に対して非常に警戒心が強く、自分より大きな動物が侵入しないようぎりぎり小さな入口を好むようです。特に最近はからすが多く、子育て中のシジュウカラの巣箱に来て入口から覗き込んでいることもあります。(2013.2.14)
一昨年、シルクロードの玄関口である敦煌へ旅して古い仏塔などを見てから、その先にあるモスク(イスラム教の礼拝堂)にも興味を持つようになりました。
ジョホールバルに出かけたついでにシンガポールに一泊、アラブストリートにあるスルタンモスクを訪ねてきました。(2013.1.24)
アラブストリートのあたりは洒落たカフェやレストラン、そしてカーペットや雑貨・衣類の店などが並ぶイスラムの文化と雰囲気を体感できる一角になっています。
道路沿いのレストランで美味しそうに名物料理のムルタバ(アラブ風のお好み焼き)を食べているカップルがいる。カフェの片隅で長い管のついた道具を使って水タバコを嗜んでいる男がいる。マレーシア風のミルクティー、テ・タリを呑みながら話をしている人たち。異国情緒たっぷりです。
スルタンモスクは1924年にラッフルズ卿(1781-1826、イギリスの植民地建設者・シンガポールの創設者)の支援を受けて建立されたシンガポール最大のモスクということです。
私はイスラム教とは何ら関係はないのですがモスクのエキゾチックで神秘的な雰囲気が好きです。空高く伸びた建物、黄金のドーム型屋根、塀や壁など随所に施された多くの装飾、モスクは建築造形そのものが美術品という感じです。
モスクに描かれるイスラム美術の装飾モチーフには3種類あるということです。ひとつは洗練された植物文様、作図し一定のパターンを形成する幾何学文様、そしてアラビア文字を使った文様です。イスラム教は厳格な一神教で、偶像崇拝を固く禁じていますので、人間や動物をモチーフにはできないため、文様が高度に発達したということです。
シンガポールのスルタンモスク→
さらにそれらの文様の中にラピスラズリ調の彩釉タイルを発見したりすると大いに作陶のヒントをもらった気持ちになります。
こんなエキゾチックな街とモスクの雰囲気を陶芸作品で表現できればと思いながらのんびり散歩しました。(2013.2.2)
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)