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MEMORANDUM-陶房雑記帳2013年8月

■高倉陶房の蛇

この場所に住んで窯焼きを始めた30年前ころには、高倉陶房の庭先、竹林の先は雑木林でした。そのころ野趣たっぷりの庭には蛇やひき蛙も出たし、コジュケイが子供連れで現れたり、コゲラが木をつついていたり、と多くの小動物がいました。
 最近は周辺の宅地開発が進み自然の生き物を見かけることが少なくなってしまいましたが、それでも小鳥や虫たちはたくさんいます。剪定した庭木や落ち葉を積み上げた場所では格好の腐葉土ができてカブトムシの幼虫もいます。庭に置いてある壺や竹の切り株に雨水もたまるのでボウフラが発生、やぶ蚊にとっては高倉陶房は楽園のような場所です。
 昨年は見かけなかったのでもう蛇は出ないのかと少し安心していたのですが、今年はすでに2回も目撃しました。最初は1メートルくらいの大物がのっそりにょろにょろと窯小屋の前を横切って行きびっくり。二回目は30センチ程度のかわいい子供。兄弟なのか、親子なのか。
 私は大の蛇嫌い!田舎育ちの割には、蛇に限らず毛虫・青虫・みみず・蛭などすべて駄目。見ただけで鳥肌が立ってしまうのです。
 蛇の種類は“やまかがし”で人間には害を与えないと聞いていたのですが、念のため調べてみたら“やまかがし”は本来おとなしい蛇で手を出したりしない限り人を噛むことはないが、奥歯に毒を持っているので要注意、とのこと。
 気が付かないで踏みつけたりして逆襲されたら、と思うとやはり不気味で怖いものです。庭に出るたびに足元に蛇が隠れていないか、きょろきょろびくびくしながら作業をしています。夕方、薄暗くなったときに庭に細長い棒が落ちていたりすると蛇ではないかとドキッとするときもあります。蛇は蛙やねずみなどの小動物を食べるようですが、一度木の上に上って小鳥の巣箱を狙っているのを見たことがあります。巣箱の中から聞こえる雛の声を狙っていたものと思われます。
 気持ち悪い蛇、とはいうものの今年は蛇年。蛇は幸せの使いかもしれませんので邪険にはできません。こわごわ見守っていたいと思っています。(2013.8.23)


■感じる力、想像する力

ベトナム戦争をテーマにした映画「プラトーン」や「JFK」などで有名な映画監督のオリバー・ストーンさんが来日して広島・長崎・沖縄などを訪問し、原爆や戦争の非道・悲惨さを訴えています。
 報道によれば8月6日は広島で平和記念式典に出席、8月9日には長崎で平和記念式典にも出席とのこと。
 広島平和記念公園を訪問した後の新聞社のインタビュー記事を読んでいたら、「感じる力、想像する力が大切」というストーンさんの言葉を見つけました。この言葉は日ごろから私も大切に感じているものなので何となく“我が意を得たり”という思いで記事を読みました。もちろん、ストーン監督と私とではこの言葉が生まれた背景と意味することは異なるのでしょうが、「感じる力、想像する力」は何事にも大切であると再認識しています。
 陶芸作品を作るということは、大なり小なり誰でも感じる力・想像する力を働かせているわけですが、見る人に何らかの感動を与える作品を創るためには、感じる力・想像する力をフルに使って製作する必要があるからです。
 つまり、作る側の感性が見る側に伝わるからこそ感動が生まれる、ということでしょうか。
 以上、ちょっと堅苦しいことを書きましたが、私自身が心がけている“感じる力、想像する力”の養成法は・・・
 うろうろきょろきょろすること。なるべく現場に踏み込むこと。人に会うこと。興味を持って見ること。見つめること。話すこと。聞くこと。
 良い作品を観て何故良いのか探すこと。陶芸に限らず絵でも、書でも、写真でも、歌でも、感動的な作品に多く接すること。
 人それぞれ個性が違うように、感じ方・想像の仕方が異なると思いますが、私の方法は難しく考えないで以上のような単純な作業を続けることであろうかと思っています。(2013.8.17)


■顔がよい

当たり前のことですが、“顔(表情)がよい”ということは、肖像画でも彫刻でも仏像でも、人形でも、人物を対象にする絵画・工芸品では非常に重要な要素です。
 ダヴィンチの「モナリザ」が不朽の名画といわれている所以は、絵画としての総合的な技量はもちろんですが、やはりあのモデルの不思議な微笑があるからでしょう。
 昔、アルゼンチンのブエノスアイレスに旅行したときに、カミニートという街角でタンゴを踊る男女の絵を買いました。今もときどき取り出して部屋に飾ってカミニートで楽しんだタンゴハウスの雰囲気を思い出したりしているのですが、アルゼンチンタンゴ特有の情緒的・官能的な響きが伝わってこない。よくよく見ると踊る姿は躍動感に描かれているのですが、どうも女性ダンサーの顔が魅力的に描かれていない。
 陶芸作品で人物を陶に描いているものは少ないように思いますが、シルクロードの楽師たちを描いた私の絵皿ではやはり表情に気を配りました。目を描く、唇を描く、線一本で表情がガラッと変わってしまうのです。
 ポーセリンアート(粘土造形)で七福神をモデルにした作品を観ました。福をもたらす七柱の神様のそれぞれが丁寧な造形で出来上がっているのですが、どうも顔が福福しくない。形としてはよく出来ていても顔ひとつで有難みが変わってしまいます。
 友人の高橋正代さんたちのグループ展の案内をいただいたので銀座の画廊で観てきました。
 高橋さんの発表作は東日本大震災で被災した人たちを励ますチャリティーコンサートで歌う子供たちやダンスを踊る少女たちの姿を描いたものでした。
 歌う子供たち、踊る少女たちの表情が生き生きと暖かい色彩で描かれていて、楽しい雰囲気がこちらにも伝わってきました。猛暑の中銀座まで出かけたのですが、さわやかな、明るい顔の少年少女たちに会えたな、という感じで画廊を後にすることができました。(2013.7.27)


神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)