香炉は造形的にも自由な発想で作れるし、贈り物としてもちょっと洒落ていて好きです。これまでにも結婚祝いとか、家の新築祝いとかに香炉を製作し贈呈したことが何度かあります。“家の中によい香りを”、なんていう言葉を添えると気の利いた贈り物になると思っています。
昨年の夏に開催された藤沢三田会アート展では「香る陶」というテーマでいくつか香炉を発表しました。(当ホームページ「ギャラリー」参照 )
仏具としての香炉に限らず、キリスト教でも、イスラム教でも、ヒンズー教でも、宗教の儀式では香炉は欠くことのできない重要な用具になっているようです。もちろん宗教的な目的以外にも単に香りを楽しむために香炉を焚くこともあるし、癒しの香りとしてハーブなどのさまざまな香りを楽しんでいる人も多いと思います。
ただし茶道で用いる香合(こうごう)や香道で用いる香炉は又特別なしきたりの中で用いるのでちょっと苦手です。
若いころにお世話になったNさんが今年米寿を迎える、ということで香炉を贈呈することにしました。全体のイメージをモスクのような形にして、土台部分に白マット釉で化粧し、上からブルーの釉薬をかけた香炉です。
私の調合したトルコブルーの釉薬は高温で流れやすいので、対応策として作品の下部分に白マット釉を施してあるのですが、結果としてこのコンビネーションが面白い焼き上がりの雰囲気になって今のところ気に入っています。
Nさんは88歳になられても爽やかでかくしゃくとしてときどきゴルフなどもされる方です。世界中を旅されてきた方なので、イスタンブールのブルーモスクなどを思い出していただければと思っています。
私の香炉製作の基本的イメージは、オリエントの香りがする香炉、シルクロードの香りがする香炉です。具体的には、シルクロードの砂漠の遺跡から発掘されたばかりのブルーの焼物、インド洋やマラッカ海峡の海の沈没船から陸揚げされたばかりの陶器、ちょっと薄汚れているけれど深いブルーの色調の陶、ということになります。(2013.9.21)
古代オリエント博物館(池袋)で開催されている「ユーフラテス-文明が育んだ河と人々-展」を見てきました。
学生時代に世界史で習ったユーフラテス河は、トルコの高原にその源を発しシリアとイラクの平原を潤しながら、約2700kmを流れてペルシャ湾に注ぐ大河ですが、その流域で人類最古の文明が生まれたことでも知られています。
古代オリエント博物館の調査隊によるこの地方の発掘調査は1974年から1980年にかけて行なわれたとのことですが、会場にはこの調査で発掘された土器・土偶や青銅器などが多数展示されていました。
私は何か作陶のヒントになるような形を探す目的で訪問したのですが、紀元前1800-1600年ころにシリアのテル・ルメイラ地方で発掘されたという土器(陶製の食器)の形が興味深いものでした。メモ帳にその形をスケッチして記録しました。この地域は、地球上で初めて麦を原料にしてパンやビールが作られた場所としても知られています。テル・ルメイラの人たちはこの土器にパンやビールや果物などを盛って、生活用具として利用していたのではないかと想像しました。
当時の土器はおそらく900℃程度の低火度で焼かれたものと思われますが、私はスケッチをもとにこれらの土器を成形・再現し、素焼きして現代の釉薬を施して焼いてみたいと思っています。
古代オリエントの土器を再現中→
私の焼成温度は約1250℃。現代版オリエントの土器がどのように焼きあがるか?シルクロードの砂漠の遺跡から発掘されたばかりのようなトルコブルーの焼物が再現できれば最高です。
ところで、土偶などは素朴に作られており、現代でも小中学生の粘土細工にあるような気がしますが、土器の中には現代にも通じる造形美をもった素晴らしい雰囲気のものがあります。古代の優れた土器を眺めていると人類の造形に関するセンス(感覚と技術)は3600年以上も前から現在まであまり進歩が無いなという印象です。
無論、焼成技術や釉薬の開発発展により作品の進歩は著しいものがあるわけですが。(2013.9.5)
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)