私は陶芸品に関してはプロからアマチュアまで、そして古代から現代のものまで数多く見ているので、ほどほど見る眼があると自負しています。一方、絵や写真やその他の工芸なども好きで見る機会が多いのですが見る眼は自己流です。
水彩画は学生時代に遊びで描いていたことはありますが、油絵にいたっては絵の具や絵筆に触れたこともありません。しかし作陶のヒントやアイデアが見つかると思っているので、絵画など他のジャンルの作品を鑑賞する機会は積極的に作っています。
そこで自分なりに絵画を評価する尺度をつくっています。それはその絵を見ていて“イマジネイションが働くか”、ということです。つまり、私なりに絵の良し悪しを判断する尺度は、その絵を見て何か想像力をかきたてられるかどうか、です。
先日も学生時代からの友人Mさんの水彩画のグループ展があり、鎌倉駅前の生涯学習センターのギャラリーまで出かけてきました。
Mさんの絵でトレドの古い城壁の小さなトンネルを描いた作品がありました。私は何十年も前に訪れたトレドの街を思い出しながら、城壁のトンネルの向こうに何があるのだろう、とイマジネイションを働かせる。それだけで私にとっては懐かしく楽しい絵になります。
恒例の三田会アート展の仲間、Kさんが描いた横浜山下公園と氷川丸の風景画が素晴らしいのでお願いしてその絵をいただきわが家の玄関に飾ってあります。
横浜の山下公園界隈は私にとって学生時代によくぶらぶらした風景で懐かしく、大いにイマジネイションが広がります。深夜放送のラジオから流れるポートジョッキーのメロディー、子供のころ潮干狩りをした本牧の海辺、友人とよく訪れた野毛のモダンジャズの店など、懐かしく思い出されます。
有名なところではゴッホの「夜のカフェテリア」。青と黄で描かれた夜空と光り輝く星、あふれるような黄金色で描かれたテラスカフェ。内部の喧騒と客たちの楽しい語らいが想像される私の好きな絵のひとつです。
審美眼、なんていう難しい言葉もありますが、美を見る目は人それぞれ。自分なりの尺度で勝手に単純に絵の良し悪しを評価するのも楽しいものです。(2014.12.16)
永年磁器絵の製作活動を続けている友人、藤田宏美さんの発表会を鎌倉のギャラリーで観てきました。
鎌倉駅を降りて八幡さまへと向かう若宮大路の信号を渡るとすぐのところにギャラリーがありました。一歩足を踏み入れると広い室内は豪華な雰囲気。
テーブルの上には色とりどりの装飾が施された皿、コーヒーカップ、ティーカップ、水差しなどが並んでいます。壁面には額装された陶板が飾られています。
高級フレンチレストランに入った雰囲気でしたが、残念ながらワインや料理はテーブルの上にありませんでした。
さっそく藤田さんの解説で磁器絵(ポーセリン・ペインティング)について勉強。
磁器上絵付けには大きく分けてヨーロピアンスタイルとアメリカンスタイルがある。前者はマイセン(ドイツ)、ジノリ(イタリア)などに代表されるもので模様を中心として乾きやすいオイルを使って描く。
一方、後者は乾きにくいオイルを使いバックを描くことにより主題を浮き上がらせるように表現してゆく。つまりバックと影で主題を表現する。
従って平筆を使ってグラデーションを大切に描いてゆくもので、描いては焼きまた描いては焼きの繰り返しで、手間ひまがかかる製作方法とのこと。
藤田さんの手法は後者、つまりアメリカンスタイルの磁器絵なのです。
労作の一つひとつをゆっくりと解説付きで拝見、私にとっては畑違いの磁器絵ですが大いに勉強になりました。
磁器絵だけとってもその表現方法が産地によって異なるわけですが、磁器絵と和物陶器に描く絵(下絵付け)ではまた異なります。
藤田さんは勉強家で、和陶の下絵付けも経験してみたいということで数年私の陶房にも通っていました。私の陶房では主に下絵の具で呉須(青色顔料)による染付けの皿などを製作していました。使った粘土は磁器土ではなく信楽の白い細かい陶土です。
基本的に和陶の染付けは750~800℃くらいで素焼きした陶磁器の素地に下絵の具で絵を描いて更にその上から透明系の釉薬をかけて本焼するわけです。
磁器絵の筆使いと和陶染付けの筆使いではまったく異なるはずですが、さすがに藤田さんは基礎ができているのでうまい。染付けのブルーの濃淡の表現方法や線の流し方など初心者とは思えない感覚で描いていました。(2014.12.16)
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)