残り土を混ぜ合わせて轆轤でひいて釉薬もかけずに焼き締めただけの水鉢が小鳥たちの格好の露天風呂になっています。高倉陶房の庭には小鳥たちのための水鉢が2か所においてあります。
鳥や動物たちが「美」をどういう風に受け止めているのか分かりませんが、どうやら人間好みの装飾を施した陶磁器よりも、釉薬をかけない自然の土味を残した焼締め陶のほうが、好んで近づいてくれるようです。動物たちは人間の「作為」を本能的に察知しているのではないかと思います。
花水木の下においてある水鉢には鳩、ヒヨドリ、シジュウカラ、めじろなどが水浴びに来ていますが、このところ新緑の間を縫うようにオナガの大群が飛来して、入れ代わり立ち代り水浴びして飛び去ってゆきます。頭は黒、胴から長い尾にかけては明るいブルーグレーというセンスの良い美しい姿なのですが、声はギイーギイーとお世辞にも品がよいとはいえません。
調べると、オナガは1970年代までは本州全土および九州の一部で観察されていたが、1980年代以降は西日本では繁殖が確認されず、現在では石川県以東、神奈川県以北で観察されるのみになっているとのこと。九州で絶滅したのはカササギとの競争に敗れたからという説もあるようです。鳥の世界にも厳しい自然環境との闘いや生存競争があるのだと思います。
そのようなわけで本州中部以西のバードウォッチャーにとっては、オナガはなじみの薄い野鳥ということになります。
兵庫県芦屋市に住んでいる旧友の元浦志信さんは野鳥の写真を撮り続けているので、メールに添付して何枚かオナガの写真を送りました。
さっそく返事をいただきました。“オナガは一度は見てみたい野鳥のひとつです、 今春はヨーロッパ旅行に出かけ何種か珍しい野鳥をカメラに収めてきました”、とのこと。オランダで初めて出会ったという「ニシコクマルガラス」という珍しい野鳥の写真がメールに添付されていました。(2014.5.18)
横浜高島屋で開催されている辻竜馬さんの絵付け作品展を見てきました。友人の紹介でお会いしたのですが辻さんとは初対面です。会場では絵付けの実演も見学できました。
辻さんは大学卒業後に多治見工業高校の陶磁器専攻科で陶芸を学んだ後、更に絵付けの勉強のために京都府立陶工高等技術専門校の図案化で学んだという、陶芸絵付けのプロです。
「やきものネット」という雑誌に辻さん自身がその製作姿勢を紹介しているのでまずは以下に引用しておきます。
“ただひたすらに繊細な小紋を描くことを追求しています。器の裏側までびっしり描いているところも、ぜひ見ていただきたいです。器にちょっとでも模様を描くスペースが残っていたら、少しでも長い時間、筆を動かしていたい、描きたいから、裏側まで描いています。自分の好きなことに、ただ邁進するだけです。
技法については、まず、すべてがフリーハンドで描いているということ。絵の具は和絵の具を使っているのですが、あとは、金やプラチナなど、なるべく良い材料を使って、ちょっと高級感を出そうかなと(笑)。なぜここまで描くことが好きで、熱中するようになったのか。それは元々、細かい作業とかをすることが好きだったこともあるのですが・・・一番は、小紋の美しさに感動したからです。”
辻さんが絵付けに熱中している姿勢が伝わってくる言葉です。
華やかな小紋のぐい呑み→
会場では辻さんの実演を見ながら小紋の描き方、焼き方などについて話しを伺いました。
素焼きをした素地にまず呉須などで小紋の輪郭を下絵描きして本焼きする。更に赤・緑・青・黄・金・銀などで上絵を描く(上絵具は描くというよりも顔料を落としてゆく、という感覚です)。丹念かつ細かな作業で湯飲み茶わん1個に文様を描くのに一日では足りないとのこと。上絵を描いた後に再度焼成するわけですが顔料により焼成温度が異なるので最低でも2回、つまり合計で4~5回は窯焼きすることになります。陶芸は手間ひまのかかる仕事なのです。
辻さんのように自分の専門領域(つまり好きな領域)を決めて、その道を極めようと励んでおられる方と話をするのは爽やかで迫力を感じます。記念に小紋がびっしりと描かれた華麗なぐい呑みをひとついただきました。お祝いの席などに似合いそうなぐい呑みです。(2014.5.9)
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)