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MEMORANDUM-陶房雑記帳2014年9月

■心地よいもの

見ていて心地よい、使ってみて心地よい、使い勝手がよい、これは陶芸品を創るうえで重要なことであると思っています。東京駒場にある日本民藝館の館長、深澤直人さんは「無印良品」の企画者としても知られている工業デザイナーですが、朝日新聞紙上(2014.9.2朝刊)で次のような話しをされています。
 “日常で使うものをデザインするとき重要なのは、使う人にデザインを意識させないことです。使い勝手というのは使いにくいときに初めて意識するもので、使いやすければ意識しない。優れたデザインとは、意識せずに、心地よく使えるものだと思います。”
 この言葉は日本民藝館の創設者でもある柳宗悦らによって提唱された「用の美」にも通じる考え方であると思います。「用の美」を私なりに解釈すれば、日常生活の中で、使って、見て、触って、美しいと感じる作品、ということになります。
 美術工芸の世界にはいろいろなジャンルがあり、その表現方法も多彩になっており、必ずしも心地よいものばかりではありませんが、私は用の美に拘り“心地よいもの”、作りをこれからも志してゆきたいと思っています。
                日本民芸館の庭で

 心地よい陶芸作品とは?
 食器や酒器の類はまず“重くない”ことが大切です。中に酒が入っていないのに重い徳利や、水が入っていないのにずっしりと重い水差しなどは、置物として鑑賞するだけならいいのですが日常使うとなると落第です。重そうに見えて重厚感があるが手にとって見ると意外と軽いというものが理想です。
 更には眺めていて何となく、落ち着く、暖かくなる、懐かしくなる、ゆったり感がある、というような作品が私の好みです。当然バランスのとれた形が大切になります。そして色調も。
 純米大吟醸を旨く味わえるようなぐい呑み、コーヒーを味わい深く楽しめるカップ、花を生けて部屋が清清しくなるような花瓶、穏やかな気持ちで抹茶をいただけるような茶碗、盛った料理を引き立て美味しくなるような陶皿・・・・。
 意識せずに心地よくなるような作品を作れたらいいなと思います。(2014.9.19)


■蹲(つくばい)を作る

蹲とは、茶庭(露地)に設置され茶室に入る前に手を清めるために置かれるもの。手水鉢(ちょうずばち)ということもあります。
 通常は石を彫って作られたものが多いのですが、陶で作られたものも時々見かけます。
 石の蹲では滝壺などで永年流水に打たれて自然に彫られたものが最高という話しもありますが、人工的に作られたものでは京都竜安寺の「吾唯足知(われ、ただ、足るを知る)」の蹲が有名です。四つの文字に共通の「口」を中心に文字が彫られ禅語が成り立っているわけです。その意味は・・・ここでは難しい話しは省略します。
 Fさんの夢は和風のカフェ&レストランを作り経営することです。そのために店で使用する食器や装飾品関係も自分の手作りでという思い入れがあります。
 このたびFさんから蹲を自分で作りたいという話しがあり、私も手伝うことにしました。
                あわら温泉灰屋の蹲

 粘土は、信楽の荒め粘土と赤土を50:50でブレンドしたものにしました。
 作り方は轆轤で立ち上げてゆく方法もあるのですが、Fさんは轆轤の経験があまりないと言うことで、“輪積み”とも“ひも作り”ともいわれている技法で作ることにしました。轆轤で回すよりも手作り感があり面白い焼き上がりが期待できそうです。
 まず、土台(蹲の底の部分)を円形の鉢を造る要領で作ります。土台の周りに人差し指くらいの太さにした粘土の紐をこつこつと積み上げてゆき、紐粘土の接続部分にひび割れなどが生じないようしっかりとへらで押し付けながら少しずつ高くしてゆきます。そして全体の形を整えながらたたき板で周囲をまんべんなく叩いて粘土を締めてやります。
 口広の壷のような形が目標です。壷であればなるべく薄く作らないといけないですが、蹲はもともと重いので厚く作ってもかまわない、という気軽さがあります。石作りのものに比べて重量感を表現することがひとつのポイントだろうと思います。
 Fさんの楽しみな蹲、焼きあがってレストランに置かれたら又この欄で紹介します。そしてレストランでしっかりとご馳走になろうと思っています。(2014.9.7)


神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)