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MEMORANDUM-陶房雑記帳2015年10月

■水彩画家の染付陶

水彩画家、福島光夫さんは米寿を過ぎて益々精力的に絵に挑戦されています。
 私は今春、福島さんの個展「赤のシリーズ・88歳」の会場で初めてお会いしました。
 ギャラリーの作品を拝見し、画集を拝見し、画集に掲載されているたびの記録を拝見し、お話を伺い、すっかり福島さんのお人柄、生き方、などに魅了されてしまいました。日本はもとよりヨーロッパやアジアの各国を旅行し多くのスケッチを残しておられますが、みな素晴らしいものです。
 そして今年の夏、福島さんから誠にありがたいプロポーズ。
 「陶に絵を描いてみたい」。
 ということで、私が作陶部分だけお手伝いすることになりました。
 福島さんは陶への絵付けはほとんど初めてということでしたが、さすが筆運びに習熟されており画用紙に描かれるのと同じような早さ。
 今回使用する顔料はすべて呉須(コバルト顔料)、焼きあがり作品は一般に“染付け”と呼ばれています。
 通常、素焼きした陶の表面は紙の表面と異なりすぐに水分を吸収してしまうので、筆先の顔料の多い少ない、あるいは筆運びの早い遅いが、焼き上がり表現に大きく影響します。顔料が薄すぎると色が出ない、濃すぎると顔料が固まって釉薬に溶けてくれない、というようなトラブルも発生します。
 陶板には「日本の城」をモチーフに描いていただきました。陶の表面での濃淡の表現(光と影の表現、空や雲の表現)が水彩絵の具に慣れておられるのでほとんど失敗無く焼きあがりました。
 そして「燭台」には天山山脈の麓を走る汽車やベニスの風景などを描いていただきました。旅情たっぷりの燭台が焼き上がりました。

 福島さんの染付け陶器は今月29日から開催する「高倉陶房の仲間たち発表会」(於:小田急線長後駅前「ギャラリー669」)で紹介する予定です。初めての絵付け作業ということで福島さんの目からは満足できない部分もあるようですが、これからに向けての初作ということで出展をお願いしました。(2015.10.20)


■夢つむぐ人

久しぶりに重量感のある、大胆かつ繊細な、情緒たっぷりの作品を観て、穏やかでない気持ちになっています。智美術館で「夢つむぐ人 藤平伸の世界」展を観てきました。恥ずかしながら私はこの展覧会の招待状を手にするまで「藤平伸」という陶芸家を知りませんでした。全くの不覚です。
 まずは智美術館のホームページにプロフィールが掲載されておりまずので、引用させていただきます。

 藤平伸(1922-2012)は、京都の五条坂で操業する藤平陶器所(現・藤平陶芸)の次男として生まれ、作陶家として活動し、深い精神性と滋味ある作風で高い評価を得ました。その作品は、実用の器からオブジエや陶彫、そして書画にいたるまで、伸びやかな形の中に、創作を楽しみ、人生の機微を謳うような豊かな詩情が漂います。藤平は31歳で日展に初出品し入選すると頭角を現し、35歳の時には日展特選を受賞するなど注目を受けるようになりました。その後は1970年より京都市立芸術大学の陶芸科にて教鞭を取りつつ四十年以上に渡り日展へ出品、やがて日本陶磁協会賞(73年。98年に同金賞)、毎日芸術賞(93年)を受賞するなど陶芸家として高い評価を受けています。藤平作品の魅力は、深い叙情性を宿した所にあるといえるでしょう。それは常にアイデアを熟成させ、静かに自己の表現を深めた作家の内面から生まれるもので、見る者に不思議な余韻をもたらします。

 以上、まさに適切に表現された文章と思います。
 真っ白な釉薬に包まれた素朴な子供の姿「太郎の雪」、果物や菓子をたっぷりと盛ってみたい堂々とした「呉須手鉢」、繊細な作りの「虫の音」、シルクロードの古城を思わせる「楼蘭吉祥」、どこにお香が入るのかと考えてしまうような「香炉西塔東塔」、遊び心たっぷりの「蓋を開ければ」などなど。豪快な心、繊細な心、子供の純心、大人の情緒、すべてを持ち合せた不思議な陶芸家を感じました。今回、藤平作品には初対面だったのですが美術館を出て歩きながら、またどこかで会いたいな、と思い出すような作品ばかりでした。(2015.10.6)


神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)