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MEMORANDUM-陶房雑記帳2015年3月

■前衛書と陶

竹橋の毎日新聞社のアートサロンで開催されている毎日書道展を観てきました。目的は友人の書道家で毎日書道会会員、塩島淳子さんの作品を観ること。
 発表作品は、漢字・かな・近代詩などいくつかの分野に分かれているのですが、塩島さんの書は前衛部門です。
 書かれている文字や詩歌が分かれば、書家の表現したいことがおおむね理解でき、自分なりの尺度で書の好き嫌いなどを評価・判断することはできます。(私は書をよく見るのですが、書の良し悪し、上手下手などは評価できません。ただ自分の好みで鑑賞するだけです。)
 前衛書はまず何が書かれているのか分かりません。書に向かって自分自身の想像をめぐらすのですが・・・作品の横に表示してあるタイトルを見て何とか書家が表現しようとしていることをイメージすることができる程度です。
 今回発表された塩島さんの書のタイトルは「あしたこそ」
 作品を見ているだけでは何が書かれているのか分からない。それでも塩島さんは「文字=漢字」を意識して筆を運ぶとのこと。太くダイナミックな墨跡が額の中の白い紙の上に堂々とおさまっている。私は書家の筆の運びを想像し、「あしたこそ」という言葉の意味するところを感じ取ろうとする。書家が意とする「あしたこそ」を作品のどこに感じるか?外に向かってのメッセージなのか?自分自身の道を更に高めたいという書家の志か。
 結局、どう感じるかはそれぞれ観る人次第、ということになるわけですかね。そこのところが面白いのかもしれませんが、前衛は難しい。
                  高倉陶房の白梅

 陶芸の世界にも前衛陶芸があります。通常私たちが作っているような「使う陶」や「観る陶」とは区別して、前衛陶芸を「読む陶」とか「考える陶」と呼んでいる人がいます。
 前衛書を観ていると陶芸で言えば自然釉の焼き締め陶に似ているな、と思います。書家が墨跡に表現をゆだねるように、陶芸家は窯の中の釉の流れに作品の出来映えを任せる。陶の表面に高温で溶けた灰釉・自然釉が流れて様々な文様を作り、風景となる。作者の意図する作品が焼きあがるか?その作品を誰かが見て何と感じるか?
 人それぞれ。難しいからおもしろい。(2015.3.19)



■日本陶磁全集(中央公論社)全30巻

親しくしている方のお父さんの蔵書だったという、「日本陶磁全集(中央公論社)」を頂戴しました。その方は陶芸に興味がないので私のような道楽ものに活用していただきたい、ということで我が家の玄関に大きな段ボール箱が2個届きました。
 昭和51年印刷発行の全30巻。一冊ずつが大冊で家の中でも場所をとるし、寝転んで見るわけにはいかない。とりあえず本棚の前に積み上げてそのままにしておいたのですが・・・
 暇な時間に興味あるテーマごとに陶房に持ち込んで見始めるとなかなか面白い。豊富な陶磁器の写真は作陶テーマ(形)を決める時に役立つし、眺めても楽しいし、それぞれに付いている解説文がまた興味深い。陶芸には多くの分野があるわけですが、これまで見るだけで素通りしてきた分野についても、それぞれの巻を開いて作品を見て解説を読んで、日本における陶磁器の流れを感じることができます。陶芸の原点回帰という思いです。以下、最近開いた二巻から。
 「緑釉・三彩」の巻。
 正倉院の二彩・三彩から始まって、形も釉流れのデザインも魅力的な写真がいっぱい。そして解説文には、中国で初めて焼かれた唐三彩を源流として日本の三彩・緑釉陶器がどこでどのように発生したか?細かな考察が加えられている。奈良時代・平安時代に造られた彩釉陶器は日常生活で使われることはなく、ほとんどは東大寺などの寺社の祭祀に用いられたものとのこと。三彩の製作技法、釉薬をどのように調合したか、も興味深い。基本的に三彩は鉛(酸化鉛・鉛丹)・銅(緑青)・鉄(赤土)を原料として釉薬を調合し、白・緑・黄褐色を表現している。
 「萩・上野・高取」の巻。
 巻末に「西国大名の国焼」というタイトルでそれぞれの歴史や成り立ちが解説されています。萩焼は毛利藩主毛利輝元の、上野(あがの)焼は細川藩主細川忠興の、高取焼は黒田藩主黒田長政(軍師・官兵衛の子)の、それぞれの藩命により朝鮮半島から連れてこられた陶工たちが窯を築き焼き始めたのがルーツといわれている。 そして作品の多くは当時大名の間で流行していた茶道具が中心。町興しとして飯茶碗や壷などの生活雑器も焼いていたのだろうが、これらは消耗品で今に残っているのは少ない、と記されている。
 時はまさに関ヶ原の合戦が終結しようとしていたころ。焼き物を見ていると当時の大名たちの生活ぶりや、異国に連れてこられて一所懸命生きようとしていた陶工たちの生活が偲ばれます。(2015.3.6)

                  高倉陶房の紅梅










神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)