本文へスキップ


MEMORANDUM-陶房雑記帳2017年5月

■ボロブドールの月

インドネシアのジャワ島に住んでいる息子の家族が、今春半年ぶりに帰省したときにボロブドール遺跡の写真集を土産に持ってきてくれました。写真集の中に夜の寺院群を満月が照らしているという印象的な風景があったので、さっそく扁壷の表面に描いてみました。(扁壷は既にわら灰系の釉薬をかけて本焼きを済ませてあったのですが、ちょっと平凡な焼き上がりだったので、上絵を描いて何か装飾を施そうと思っていたものです。)
 寺院群は黒茶の上絵の具で、月はシルバー(雲母銀彩)の上絵の具で描き、800℃で焼き付けました。一晩冷まして窯を開くと焼き上がり雰囲気はほぼ想定内、何となく憧れのボロブドールを表現できたかなと思っています。寺院群のシルエットの上に月が輝いている。最初は月を黄色で描こうと思ったのですが、銀彩にして落ち着いた雰囲気が出せたと思っています。
 ボロブドゥール(Borobudur)遺跡は、インドネシアのジャワ島中部にある世界最大級の石造の仏教寺院遺跡です。「ボロブドゥール寺院遺跡群」としてユネスコの世界遺産にも登録されていますが、私はまだ訪問したことがありません。
 西暦780年ころ(今から1200年以上も前!)に建造が開始され壮大な仏教寺院群が出来上がったとのことですが、なぜかその後約1000年間土とジャングルに埋もれていたという不思議で神秘的な場所です。
 1800年代半ばにラッフルズ(シンガポールのラッフルズホテルで有名)らによって1000年ぶりに発見されたことでも有名です。
 息子たちが住んでいるスマランという町はボロブドールから車で2-3時間(多分)の場所にあるようです。孫に会いにゆきながらボロブドールを訪れたい、という気持ちが高まりつつあるわけです。毎年5月の満月の夜にはワイジャックと呼ばれる祭礼が開かれ、この日はインドネシアでは公式の祝日になっているとのこと。今回は写真をもとに描きましたが、次回は自分の目で遺跡風景を見て描きたいと思っています。
 扁壷は6月のアート展で発表予定です。(2017.5.21)


■湖北の十一面観音に再会

琵琶湖の湖北、長浜に家族旅行で出かけました。
 私の主目的は、長浜市郊外の高月町渡岸寺にある十一面観音を訪問すること。日本にある十一面観音の中では最も美しく彫刻史上の最高傑作といわれている国宝の観音菩薩さまです。京都で仕事をしていた30数年前に一度この寺を訪問して観音様にお会いしたことがあるので、再会するつもりで訪問したのですが・・・
 交通事情などで山門に到着したのが午後4時数分過ぎ、拝観時間は午前9時~午後4時と書いてある。駆け足で参道の受付に行って事情を説明し拝観をお願いしたのですが、係の人には、防犯システムをセットしてしまいました、というつれない返事で断られてしまいました。
 昔ののどかな時代であれば、はるばる東京方面から30数年ぶりに再会に来た・・・といえば、それでは特別に・・・なんてことになったはずなのですが、システムでの防犯管理となると、人情の割り込む余地はなさそうです。無念ですが境内を散歩して新緑を味わってあきらめました。
 家族は明朝また出なおそう、と言ってくれたのですが断わりました。再会はできなかったのですが、憧れの観音様が静謐な環境に守られて過ごしておられるのを確認できて、何となく安心し満足した気分になったわけです。
 この日は一日好天で、境内にも西日がさしてさわやかな雰囲気。この寺が多くの宣伝をしないで静かな環境を保っていることは素晴らしいことです。
 京都や奈良の有名な寺の仏像たちは、多くの観光客に見られ時には東京など大都市の博物館・美術館などでの特別展などに駆り出されて、落ち着かない思いをしているのにくらべ、渡岸寺の十一面観音様は静かな雰囲気で幸せだろうと思った次第です。

                     渡岸寺山門の新緑

 今回の旅は天候に恵まれ、ホテルの窓からの朝夕の琵琶湖の眺めも最高でした。琵琶湖周辺は華やかな京都にくらべて何となく脇役的な存在ですが、京都市内の喧騒からちょっと離れて落ちついて旅らしい旅を味わえる場所だと思っています。
 付記:渡岸寺という名は通称で、正式名称は向源寺といいます。浄土真宗のお寺では、阿弥陀如来以外の仏像を祀ることは許されていないので、向源寺ではなく渡岸寺という名前が一般的になっているのだそうです。(2017.5.9)


神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)