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MEMORANDUM-陶房雑記帳2014年2月

■「旅するギャラリー」

美術館や博物館を訪問する目的は人それぞれでしょうが、私にとってはこのところもっぱら情報収集・作陶のアイデア収集です。
 特にこの数年、シルクロードや古代オリエントの古い陶磁器類を現代的に再現することに興味を持ち始めてから、この地方の自然や当時の風俗・風土などをより具体的に知りたいと思い、暇を見つけては美術館・博物館や古本屋巡りなどをしています。
 例えば、いま長方形の陶皿の表面に笛や弦楽器を演奏する砂漠の女たちを描いているのですが、民族衣装や楽器の形などなるべく昔の姿を再現したいと思っています。
 本来ヒマとカネに余裕があれば、現地を旅していろいろな文物情報に巡り会い、アイデアを得ることができるのでしょうがなかなか思うようには行きません。
 そんなことを思いながら東京国立博物館東洋館(アジアギャラリー)を訪問したら、館内の案内マップに次のような言葉がありました。
         迫力ある唐三彩の馬

“東洋館は「旅するギャラリー」です。アジアの各地域の美術を巡る旅、はるか紀元前までさかのぼる東洋美術の歴史を歩く旅、美術を通じてその時代の人々の思想や生活に思いを馳せる旅・・・いろいろな旅ができます。”

 博物館の中はフロアーごとに中国、朝鮮半島、インド、西アジア、エジプト等に分かれ美術品が整然と陳列されています。
 それぞれ素晴らしく「旅するギャラリー」は私にとって願ってもない企画なのですが、やはりその土地その土地の寺院や宮殿や生活の場に直接踏み込んで、風土や人情を感じながら美術品などに触れることができればさらに感動的であろうと思ってしまいます。
 東洋館全体の印象としては石彫が多いこと、そしてその文様は仏教・ヒンズー教・イスラム教などの宗教的な物語を表現しているものが多いことに驚かされます。インド・中央アジア・中国などの仏教美術に大きな影響を与えたというガンダーラ(現在のアフガニスタン東部からパキスタン北西部にかけて存在した古代王国)の石彫は緻密に丹念に彫られ製作者のエネルギーを感じます。
 陶芸品では中国の唐三彩。大きな唐三彩の馬は見れば見るほど迫力があります。銅(緑)・鉄(赤褐色)・アンチモン(クリーム色)などを発色釉薬として用いているとのこと。そして韓国朝鮮時代の骨壷の造形。そろそろ「My骨壺」(陶房雑記帳2011年8月参照)を用意しなければと思っている今日この頃です。(2014.2.26)

■人間国宝展

上野の国立博物館で開かれている「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」を観てきました。
 人間国宝とは俗称で正しくは重要無形文化財保持者といいます。日本の工芸技術(陶芸・染織・漆芸・金工・木竹工・人形・日本刀など)と芸能の発展に尽くしてこられた達人のなかでも最高峰の方々に授与される称号です。
 今年は日本に人間国宝の制度ができて60周年、そして多くの人間国宝を輩出してきた日本伝統工芸展も今年60回目を迎えるということで、それぞれの60周年を記念しての人間国宝展です。
 東京国立博物館平成館の広い会場にすべての分野合計で145点が展示され見ごたえのある展示です。すべてをゆっくりと鑑賞するのは難しいので陶芸分野を主にして鑑賞しました。
 私の好みで印象的な陶芸分野の作品をあげますと・・・
 藤原啓・雄 親子の重厚な備前焼の壷、島岡達三の益子焼縄文象嵌大鉢、三浦小平二の青磁にオリエンタルな絵付けを施した青磁豆彩、徳田八十吉(三代)の新境地を開いた九谷焼の華麗な耀彩壷、今泉今右衛門(十三代)の落ちついた深みのある吹墨色絵、藤本能道の翡翠(かわせみ)図の色絵陶筥、加藤卓男が復元した三彩の見事な釉流れ。
 良いものにはじっと見つめていると何か訴えてくるもの、語りかけてくるものがあるような気がします。そして良いものはすべてがのびのびと創られおおらかな雰囲気を持っています。
 轆轤は?絵付けは?釉薬は?焼き方は?というような好奇心で観ます。すべての作品は名人たちが永年にわたる修練の末にたどり着いた境地で、じっくりと時間をかけて製作をし、1200℃~1300℃前後の火の洗礼を受けて生まれ出てきたもの。
 毎度のことながら、どうしたらこのような作品を作れるのか?どうしたらそのような表現方法に近づけるのか?と想像しながら私は鑑賞します。
 このところ寒い日が続いていましたが、幸いこの日は快晴で暖かく、歩き始めた孫を連れての楽しい上野公園美術館散歩でした。(2014.2.3)


神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)