本文へスキップ


MEMORANDUM-陶房雑記帳2015年5月

■東洋の美・アジアの焼物

ヨーロッパの華やかで可憐な花柄の陶磁器も好きですが、やはりどちらかと言うと、東洋の焼物のほうが“飾らない美しさ”があり落ち着きます。
 出光美術館で開催されている「東洋の美」展で、日本・中国・韓国・ベトナム・タイ等々アジアの国々の陶磁器や工芸品を眺めてきました。陶磁器だけ見ていてもそれぞれの国ごとに個性や趣(お国柄)があり楽しいものです。
 それぞれの国の文化・宗教・天候・生活様式などさまざまな要素が長い歴史の中で入り混じって、各国独特の趣と美をかもし出しているのだと思いますが、同じ表現方法を使っても国によって作品の印象が異なるのは興味深いところです。
 例えば、青色顔料の原料となるコバルトがシルクロードを通って中国景徳鎮に届いたことにより、陶磁器の装飾材料として使われ元の時代に世界に冠たる青花(せいか・「青華」ともいう)が花開いています。(陶房雑記帳2011年10月「青花の道」参照)
 そして、コバルト顔料は中国から朝鮮へ、日本へ、ベトナムへと渡ってそれぞれの国のそれぞれの表現方法で青く装飾された陶磁器が焼かれています。
 しかし、朝鮮に渡って創られた青花と、ベトナムに渡って創られた青花、日本で発達した青花(日本では「染付」という)では焼物としての雰囲気が異なります。
 私なりの感覚で評価すると、中国ものは端正・緻密に、朝鮮ものは清新・簡素に、ベトナムもの(安南染付など)は素朴・幽玄に、そして日本の染付(古伊万里など)は粋に、と、微妙な表現差を感じます。
                     台湾の青花

 古伊万里のそば猪口で蕎麦を食べる。安南焼のカップで薫り高いベトナムコーヒーを楽しむ。アジアの国々の陶磁器だけでも興味は尽きないものです。
 私はこれまでにアジアの国々の窯場・陶芸村をずいぶん見てきたつもりですが、まだまだ未訪問の場所があります。タイ各地の焼物、マレーシアのイポー焼、ベトナムのバッチャン焼、インドのジャイブール焼・・・、東南アジアには有名ではないけれど伝統的な窯場がたくさんあります。陶芸の旅は尽きません。ああ、旅に出たい。(2015.5.27)


■やり過ぎ?ボールペン使用禁止!

東京国立博物館の表慶館で開催されている「インドの仏展」を観てきました。
 インド東部の都市コルカタ(カルカッタ)に1814年に創立されたというアジア最古の総合博物館、コルカタ・インド博物館に所蔵されている仏教美術の展示です。
 多くの展示品のなかで興味深かったのは、「釈迦の生涯」のコーナー。釈迦の誕生から出家、成道(悟りを開く)、初めての説法、そして涅槃に至るまでの一生を12体の石像・石彫(レリーフ)で表現したものです。(古代王国ガンダーラでは釈迦の生涯をたどる仏伝説話の美術が発達していたとのこと。)
 彫られた石の種類は出土した地方や時代によって異なるのか、赤色砂岩、片岩、玄武岩など。製作は2世紀から10世紀ころまで。
 石の素材などが興味深いので、カバンから手帳を出してボールペンでメモしていると・・・係の女性が私に近づいてきて「ボールペンは展示品を汚損するので鉛筆を使ってください。」といわれ鉛筆を渡されました。
 突然、悪者扱いされたような気分で釈然としなかったのですが、年寄りがごねても仕方ないので渡された鉛筆を使ってメモしました。
 館内で注意されたことがどうも納得できない、面白くないので、家に帰ってから東京国立博物館のホームページを開いてみると確かに書かれている。
                 東京国立博物館表慶館

 「お客様にお願い」という項に、「展示品を汚損する可能性があるボールペン・万年筆・毛筆などの使用はご遠慮願います」と。
 しかし、博物館を訪問する多くの人たちは、毛筆はともかくボールペンか万年筆はポケットかバッグに入れているだろう。悪意(作為)があればだれでも展示品を汚損することはできる。持ち込みを禁止するならともかく、善意で(単純に勉強目的で)ボールペンを使っているものを注意するのは如何なものだろう。あなたは危険人物ですからボールペンは使ってはいけません、と言われたようなものです。
 折りしも各地の寺院などで仏像が油様の液体で汚損されている、という事件が起きている。油様物体の持ち込みを禁止したほうが、よほど適切と思うのですが。(2015.5.11)


神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)