誘われて沖縄を再訪した。沖縄本島訪問は6年ぶりである。(陶房雑記帳2010年『読谷村を訪ねて』参照。)
今回の旅の主目的は、“孫のお相手”という自覚で出かけたのだが、ちょっと時間をもらって那覇市内の「やちむん通り」を歩いた。沖縄では焼物のことを「やちむん」という。
通称、壺屋やちむん通り。那覇市平和通り側からひめゆり通りにいたる琉球石灰岩を敷き詰めたという約400メートルの通りである。道の両側にはやちむんの店が並ぶ。
一軒一軒に立ち寄って壺屋の昔話しや沖縄陶芸の製作話しなどを聞きたいような、ちょっとわくわくする街並みである。
以下は、やちむん通りを歩きながらの情報・雑記。
壺屋やちむん通りの歴史
琉球王朝時代1,682年に当時沖縄島内各地にあった窯場(*)を、焼き物産業の振興策として壺屋に統合したのが壺屋におけるやちむんの創始といわれている。
*当時は、本島北部の「古我知焼」、「作場焼」、中部の「喜名焼」、「知花焼」、那覇の「湧田焼」など、各地に窯場が点在していたようだ。
その後、昭和の時代まで約300年近く壺屋地区はやちもん産業の中心地として栄えてきたようだが、1,970年代に入ると壺屋周辺の人口が増え薪窯による煙害が指摘されるようになり、薪窯に拘りを持つ陶芸家たちは現在の読谷村に移って行ったという歴史がある。
有名な人間国宝、金城次郎さんも1970年代まではこの壷屋地区で作陶されていたが、薪窯による煙害などで読谷村に移り活躍された方である。
典型的な沖縄のやちむん
沖縄の焼物の形として伝統的なものは、「抱瓶(だちびん)」と「嘉瓶(ゆしびん)」、「カラカラ」そして「シーサー」があげられる。抱瓶は体に触れる部分がやや凹んだ携帯用の酒瓶・水筒である。嘉瓶は祝儀用に泡盛を詰めて贈るときに使うという。カラカラは酒を注ぐための急須のような器である。
シーサーは琉球王朝(1429~1879)の1470年ころに首里城の門に石造の獅子が設置されたのがその始まりといわれている。中国のしきたりが入ってきたものでその目的はもちろん魔除け・外敵防止である。
赤土に白化粧土をかけて魚の絵を彫った皿や壺は金城次郎の作品によって有名になった典型的な沖縄陶だろう。ほとんどの店に展示してある。
通りを歩いていると「シーサー手作り教室」なんていう看板もあるが、時間の都合で素通り。
南窯(ふえーぬかま)・北ぬ窯
壺屋焼物博物館からすぐのところに沖縄県指定文化財「南窯(ふえーぬかま)」がある。壺屋にただひとつ残った荒焼の登り窯である。今は南国の雑草が窯の周りに生い茂り、割れた陶片が散らばり埋もれている。
記録によれば1,682年に琉球王朝が全島各地から窯を集め統合した際に、王府が造って与えたものだそうな。北隣にあった「北ぬ窯」とならんで当時の島(王朝)の産業を支える重要な窯であったに違いない。
古い窯跡を訪ねていつも想像するのは、多くの窯焼き職人たちが薪を投げ入れて窯を焚いている熱気のある光景である。
上焼(じょうやち)・荒焼(あらやち)・赤物(あかむぬー)
伝統的な沖縄の焼物は上焼(じょうやち)と荒焼(あらやち)に大別されている。上焼とは、赤土の上に白化粧掛けをしたり、釉薬をかけたりして焼かれたもの。荒焼とは釉薬を掛けずに装飾もほとんどなく焼かれたもので壺や甕が多い。沖縄(琉球)では荒焼を南蛮焼とする見方もあるようだが、アジアにおける南蛮焼の発祥を調べると必ずしも荒焼ばかりではないようだ。そして赤物とは素焼きのままの赤色土器。多くのシーサーは赤物である。
おおらかな焼物
南国の焼物は総じておおらかである。作り、絵付け、線描などどれをとってもおおらかに表現されている。細い線で緻密に描いた、というような作品はまず見当たらない。
例えば、金城次郎のような達人の作品は、成形も線描(魚の絵)もすべてがのびのびとしている。沖縄を訪れた濱田庄司が、次郎の魚はいつも笑っている、と評価したという魚紋である。
ひと休み
通り沿いにはいくつかティールームがある。当然、ご当地で作られたやちむんが飾ってあるし、使われている。
のどが渇いたのでそのうちのひとつ南窯の近くのカフェでひと休み。
パイナップルジュースとケーキを注文し、パイナップルは沖縄産だろうか、なんて思いながらのどを潤し、しばらく休憩。
余禄1:琉球グラスの製作に挑戦
一般的に繊細で薄手で綺麗なガラス製品と異なり、琉球グラスは比較的厚みがあって素朴な手作り感があり私は好きだ。
沖縄でガラス製品が初めて創られたのは明治時代中期といわれているようだが、いわゆる「琉球グラス」は、太平洋戦争後の資源難のときにアメリカ軍基地で捨てられたコーラやビールの空き瓶を溶かして再生したのがその始まり、と言われている。
以前から機会があれば自分で造ってみたいと思っていたのだが、今回、琉球グラス手作りの店に立ち寄り、孫と二人で初めてのコップ創りに挑戦した。
ゴーという炉の音と熱気で作業場は熱い!まったく初めての経験でほとんどガラス工房の職人さんの言われるままに作業しただけなのだが・・・、無事、何とか出来上がった!孫のミルクカップになりそうだ。
余禄2:美ら海(ちゅらうみ)水族館
世界最大級といわれる大水槽(黒潮の海)の中をジンベイザメやオニイトマキエイ(マンタ)が悠々と泳ぐ光景は圧巻である。大水槽には大小70種、16,000匹もの魚類が共生しているとのこと。
水槽を眺める場所にレストランがあって幸い席が取れたので、ビールを飲みながら軽いランチをとる。ほろ酔いで黒潮の海を眺める至福の時である。
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)