高倉陶房の仲間たちは私を含めておじさん・おばさん(失礼!)ばかり。
平均年齢は60歳をゆうに超えています。しかし皆さん健康的で素晴らしい毎日を送っている人ばかり。いいおじさん、いいおばさんたちがそれぞれマイペースで楽しみながらの陶房です。一緒に陶芸を楽しみながら皆さんと話をしていると、やはり趣味を続けることが心身ともに健康を維持する重要な要素であることを実感しています。何か目的を持って活動している人は幾つになっても若いですね。まさに継続は力なりです。もちろん私にとっても仲間たちの作品が製作のヒントになったり、焼成の参考になったり、教えたり教えられたり、一緒に作ることが常に勉強になります。
“独創性はいくつになっても衰えない、ただ経験が邪魔するだけ”、という話を聞いたことがあります。経験が邪魔しないようにいつまでも柔軟な気持ちをもって独創的な作品創りを心がけたいと思っています。
高倉陶房にこのたび平均年齢を下げてくれる有望な新人男子が二人入りました。三歳の兄と二歳の弟、年子の兄弟です。お兄ちゃんは今年幼稚園に入ったばかり。(実は私の孫です。)
おじいちゃんの遺伝子が入っているからか粘土遊びが好きで、わが家に来るとまずは“ねんど、ねんど”と言いながら陶房に入ってゆきます。そして粘土を用意すると夢中になって独創造形を始めます。まだ轆轤は使えませんが粘土に穴を開けたり削ったり貼り付けたり。無邪気に遊んでいますがそんな中から独創的な作品が生まれるかもしれません。無垢な二人の新人には私が教えようとする「基本」など全く無視されてしまいます。
将来は大物陶芸家になるのではと期待しております。(親馬鹿ならぬ爺さん馬鹿!!)私の本心は大物にならなくてもよいから土や自然に親しんで優しい心の持ち主になって欲しいと願っています。(2013.5.19)
友人の書道家、塩島淳子さんの書は何となく私の作風とマッチするので、個展では何回か会場の壁面に飾らせていただいています。(陶房雑記帳2011年12月「陶と書」参照)
今夏、6月25日から開催される藤沢三田会アート展では、塩島さんとのコラボ作品を発表する予定です。つまり私の陶の表面に彼女の書を表現するというものです。陶は壺を予定しています。
まずは陶に書く文字について打ち合わせました。教訓めいた堅苦しい言葉は避けたい、陶の上に書かれた文字を見てゆったりとした穏やかな気持ちになれるようなものにしたい、という希望だけを塩島さんに伝えました。
さすがプロ、さっそく豊富な語彙の中からふたつの言葉を提示してくれました。
「夢中梦」と「閑中至楽」です。
「夢中梦」(むちゅうむ・夢の中の夢、「梦」は「夢」とほぼ同意語です。夢の中で見る夢は良い夢・悪い夢いろいろあるでしょうが、要はその人の心の持ちよう。豊臣秀吉の辞世の言葉として知られる「難波のことも夢のまた夢」も同じような意味かと思います。)
「閑中至楽」(かんちゅうのしらく・忙中閑あり、閑中楽あり、閑暇こそ最上の楽しみ。この言葉も人それぞれにいろいろな解釈ができると思います。)
ふたつの言葉はとりあえず紙の上に書かれているのですが、素晴らしい書の雰囲気を焼き物としてどのように表現するか、責任重大で技量を問われるところです。鬼板などの顔料で書くか。撥水剤で書いて抜くか。あるいは彫るか。
そして全体としてどのような陶芸作品に焼きあげるか。まずは塩島さんの書を陶の表面に活かすことに集中しようと思います。書とにらめっこです。
結果は6月25日から開催される藤沢三田会アート展で展示予定です。7月には当ホームページの「ギャラリー」でも紹介予定です。(2013.5.11)
前回の当欄で「分業」について書いたところ、さっそく景徳鎮の師匠、二十歩文雄先生から励ましのメールをいただきました。
“「分業」について!まったく同感。陶芸作家の資格はすべてに通じて自己完成に徹すること。作家の資格や要件はオリジナルにある。文様から文様を創らず。創る前の創造感と創っている途中を好みます。”というものです。
二十歩先生は日本人として初めて中国の景徳鎮陶瓷学院で教鞭をとりながら陶芸家として自らの製作活動にも精力的に取り組んでおられます。この6月にはオーストラリアで個展を予定しているとのこと、日本と中国景徳鎮を始めとする外国との陶芸文化の交流にも尽力されています。(陶房雑記帳2012年8月「私の雨過天青」参照)二十歩先生からメールをいただくと三年前の一人旅が懐かしくなり、また景徳鎮を訪問したくなってしまいますが、なかなか余裕ができません。
同じ日に、友人の三谷宜郷さんから無事転居が済んだとのメールをいただきました。ビジネスマンとして東京や中国上海等で永年生活の後、リタイアーして故郷の福岡に先月戻られたわけですが、“まだ近所を散歩していても旅行に来ている感じで慌ただしく時が過ぎてゆきます”とのこと。
三谷さんには「どうぞゆっくり引越しの疲れを取って長い実り多い旅を続けてください。」と返事のメールを打ちました。「疾風屋同人」という俳句の会を主催したり、社会貢献活動をしたり、コンサルタント業をしたり、多忙な三谷さんの転居を祝して次のような句を投稿しました。
「うらやまし 玄界灘に 立小便」
「まだ俺ら 旅の途中だ 空青い」
そうだ、故郷を離れて海外で活躍する二十歩先生も、故郷に戻って新しい環境で活躍を始めている三谷さんも、みなそれぞれ旅の途中なのだ。
よし、私の旅もがんばろう。お互いよい旅を。(2013.5.2)
神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)