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MEMORANDUM-陶房雑記帳2012年11月

■晩酌の器

わたしの晩酌はビール少々に日本酒少々が定番です。一年のうち300日くらいはこのパターンで飲んでいます。また、そのときの料理が中華風ならビールプラス紹興酒、イタリアンなら最初からワインというようなときもあります。私は甘党なのでちょっとぶったときには甘口のシェリーを食前にというようなこともあります。
 器はそのときどきの雰囲気で選ぶのですが、この1-2年ビールにはもっぱら沖縄の琉球グラスが気に入って使っています。沖縄の海の青さを思わせるブルーグリーンの流し文様の入ったグラスで呑んでいると、旅心地になって疲れが取れます。
 焼酎やウイスキーを飲むときも口広の琉球グラスに氷を入れてロックでやります。薩摩や江戸の切子グラスも綺麗ですが、ちょっと几帳面な感じでかしこまっていて私の好みではありません。
 日本酒にはやはり陶器が一番似合うと思います。(陶房雑記帳2011年7月「酒盃の楽しみ」参照)
                       ↓私の定番ビアグラス&酒盃
 薄手の磁器ものよりも比較的厚手の土もののほうが酒を旨く感じます。このところもっぱら自分で焼いたトルコ青釉のぐい呑みを使っています。トルコブルーの色を出すのに苦労したので愛着のあるぐい呑みで、夏の冷にも冬のお燗にも合うと自己満足しています。
 全国の窯元を訪問したときの記念のぐい呑みも多いので、ちょっと珍しい酒が入ったというようなときは酒器も選んでやることにしています。一つひとつのぐい呑みに窯場の風景やら陶工との話などが思い出され楽しいものです。
 酒器は特に“使い心地”が大切です。単に“機能的で使いやすい”というようなものではなくて、文字どおり“その器を使うと何となく心休まる、気持ちよく酔える”というようなものが大切であると思っています。その器によって“気軽に呑めること”、が大前提です。
 高価なワイングラス(わが家にはそんなに高価なものはありませんが)でワインを飲むよりも、比較的安くて分厚いガラス細工で呑むほうが心地よく旨く感じます。陶磁器でワインカップを作ったこともありますが、やはりワインにはグラスが合いますね。(2012.11.20)


■赤レンガ倉庫イリュージョンランプ

藤沢三田会アート展で、毎年工夫を凝らした陶芸作品を発表している藤井幸造さんからメールをいただきました。
 横浜市陶芸センターが主催する「2012横浜アマチュア陶芸展」で「横浜をイメージするやきもの部門賞」を獲得した、というものでした。うれしい報告なのでさっそく受賞作品を見てきました。
 場所は、横浜三渓園に隣接した本牧市民公園にある横浜市陶芸センター。JR根岸駅からバスで約15分、公園の中の素晴らしい場所で陶芸好きにとっては恵まれた環境です。
 陶芸センターの所長は高倉陶房の現在の窯を設置したときにお世話になった旧知の程島広行さん。程島さんの案内で藤井さんの作品を拝見しました。
 受賞作品は藤井さんのメールを引用させていただくと、「横浜名物の赤レンガ倉庫(たて24㎝、横20㎝、高さ22㎝)をモチーフにして、大壁面に横浜を象徴するマリンタワー、ランドマークタワー、白いインターコンチネンタルホテルを彫刻し、屋根には天の川が流れる天空の星座群(穴で表現)を配したもので、思いつくままに遊び心で作成したものです。倉庫内のライトをつけると四囲の窓と屋根の星から光がこぼれます。」というものです。
 窓からこぼれる光と、屋根に瞬く星と天の川。丁寧な窓や壁面の作りと全体的に暖かいレンガの色調、雰囲気、藤井さんの人柄とテーマへの思い入れが見事に表現されている作品でした。藤井さんが心をこめて窓や星を掘り、風景を彫刻している姿が目に浮かびます。
 作品を見て作者の熱意と意気込みを感じとることができるということは、作品の力であると思います。私が訪問した時間にはあいにくと藤井さんに会えませんでしたが、早くご本人に会って製作の苦労話などを伺いたいと思いながら公園の中を散歩しました。
 昔、三渓園の近くのこのあたりは長閑な海辺だったのに、今は海は埋め立てられ高速道路が走り工場や倉庫が立ち並ぶ街になってしまっています。
 子供のころ(昭和20年代初め)母方の親戚が近くの間門(まかど)海岸で牧場をしていた関係で、母に連れられてこの近くで潮干狩りなどをした記憶もあります。(2012.11.8)


■神王窯の自然釉焼締陶

焼物の原点ともいえる「焼締陶」には大きく分けるとふたつのジャンルがあると思います。ひとつはただ単に炎による粘土表面の変化すなわち土味を楽しむもの、もうひとつは燃料となった薪の灰が陶の表面で溶けて自然釉となって流れたその変化を楽しむもの。前者の例としてわたしの好きな陶芸家は山本安朗さんです。(陶房雑記帳2012年3月「琵琶鉄焼と煤書き展」参照)
 そして後者の例では長野県信州新町で自然釉焼締陶一筋に作陶を続けている塙幸次郎さんがあげられます。塙幸次郎さんの個展の案内をいただいたので秦野市のギャラリーを訪ねてきました。
 10数年ぶりの塙さんご夫妻との再会です。20年程前には塙さんの神王窯の窯焼きを手伝いに伺ったこともあります。ほぼ一週間かけて焼く最終段階の6日目ころに伺って薪入れを手伝ったのですが、夜になって煙突から音を立てて吹き出る炎に興奮したものでした。(陶房雑記帳2011年1月「神王窯からの年賀状」参照)
                       ↓塙さんの見事な自然釉流れ大壺
 個展会場には大壺、大皿、花器、茶碗、等々、重量感のある塙さんの最近作が並んでいました。永年、越前の土を使ってこられたのだが最近は信楽の土を使った作品もいくつかある。同じ窯でも越前の土は黒系に、信楽の土は明るい緋色系に発色している。色の変化は粘土に含まれている鉄分などの組成の違いによるものですが、同じような赤土でも産地によって微妙な発色の違いがある、焼物の変化の面白いところです。
 塙さんとはゆっくりといろいろな話ができて楽しいひとときでした。
 基本的には“ろくろ”は使わない、“へら”だけで成形してゆく。ろくろを使えば円いものは早くできあがるが、へらだけで仕上げることによって機械的でない温かみのある作品ができあがる。そして、なるべくゆっくりと作り上げるように心がけている。
 今年は1回しか窯焼ができなかったとのことでした。窯は10メートル近くある穴窯です。一回の焼成に楢(なら)の薪が約2000束必要とのこと。
 来年は5月ころ窯焼予定とか。北アルプスが見渡せる神王窯には最近ギャラリー&カフェ「壷裏春」(こりしゅん)を併設したとのこと。又、訪問して美しい山脈を眺めながらカフェでコーヒー&ケーキでもご馳走になりたい、と思いながら帰路に着きました。(2012.10.30)

神奈川県藤沢市高倉815-2
(小田急線長後駅東口徒歩7分)